老犬ホームは犬のためだけではない

「みんな亡くなり方はそれぞれです。例えばある日、急に発作を起こしてしまった子がいました。その日、飼い主様は伊豆に旅行に行かれていたんですけど急いで戻って来られて、到着してから息を引き取ったことがありました。この子は飼い主様を待ってたんだなって思いました」(同)

亡くなる犬を目の当たりにすることは「スタッフたちにとっても心が痛みます」と板橋さんは話す。

「私たちももうひとつの我が家として接していますので、飼い主さんと一緒に『この子はがんばったね』と言って見送ることがほとんです。最期は笑顔で見送ってあげられるようにと、いつも思っています」

THEケネルズ東京内、老犬を預かるケアルーム
THEケネルズ東京内、老犬を預かるケアルーム
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ただ実際には、施設で亡くなるよりも自宅で看取られる犬のほうが圧倒的に多いという。人間と同様に「最期は自宅で」と願う飼い主が多いからだ。

スタッフは、葬儀に参列することもある。飼い主と一緒に泣き、ともに思い出を語り合う時間は、悲しみを和らげ、犬の生涯を偲ぶ大切なひとときだ。

そんな板橋さんに、老犬ホームの役割について改めて聞くと、しばらく考えながらこう話した。

「老犬ホームって、犬のためにももちろん必要ですけど、飼い主さんのQOL(Quality of Life=生活の質)を上げるためにも大切な場所だと思っています。
そこをお手伝いして、最期まで仲良く犬と過ごしてもらいたい。そのためにももっと老犬ホームのことを広く知ってほしいと思います」

取材・文/甚野博則
集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/Soichiro Koriyama