ひょうきんでキュートな叔父の正体
もうひとり、うちの家族と仲が良かったのが、母の弟のよしあき叔父ちゃんです。顔は長渕剛に似てたかなぁ。小指が無いので、ぼくが「どうして指がないの?」と聞くと、ニヤッと笑って、逆手の小指を使い「ほら手品」って指をくっつけたり離したりしていました。ひょうきんなところがとってもキュートでした。
指の本数が少なかったので、「バルタン星人」と近所の子どもから呼ばれていましたね。でも、天衣無縫な人だったので、そんなふうにからかわれても、無邪気に笑うだけなんです。
ぼくには優しくて、お年玉なんかもびっくりするくらいくれる。彼がヤクザだって知ったのは大分後になってからで……。父親が借金をつくった時に「お前のとこのガキをさらうぞ」って、筋の悪い借金取りから脅しがあったときには、叔父ちゃんに相談し、ぼくの護衛になってもらったらしい。
もちろん、叔父ちゃん本人じゃなくて、若い衆ですよ。当時ぼくは何も知らなかったけれど、登下校の際、遠くの方でギラギラした感じのヤクザが護衛をしてたなんて……そっちの方がはるかに怪しい(笑)。
そんな、叔父ちゃんには、ぼくより5つくらい年下のN 君という息子がいました。人懐っこい感じで、くりくりした目が印象的で、童顔というんでしょうか。まさか、この子の親父がヤクザだなんて教えられないとわからない感じ。
当時はあまりそうした話をしなかったけれど、大人になってからヤクザを親に持つ苦労話をよく聞きました。やはり親父がヤクザだと、色々な経験をするらしい。
例えば、ベンツで首都高速を走っていた時に、トラックにあおられたことがあるそうです。
普通の人なら相手にしないが、そこは、ヤクザのよしあき叔父さん。首都高のど真ん中だというのに、ベンツを斜めに停めて、トラックを停車させる。その後、なぜかトランクに常備していた木刀を取り出し、トラックのドアを軽くノック。相手も根性の入った運ちゃんだから、勢いで窓を開けた途端、顔面に木刀を連打させたという。
その光景を見たN君は、「今日もまた長い1日になりそうだ」と、思ったそう(笑)。
そんな凄惨な光景を見て、冷静にそう思えるところが、さすがヤクザの息子です。
文/近藤令