こりゃあ客はキレるわ…野村證券の”軍曹”が大損したアラブ王族に送った、たった2行の運用報告書…回転売買手数料でボッタくるだけでなく、はめ込んだ「腐れ玉」とは
ヘッジファンド「タワーKファンド」を立ち上げ、800億円を超える個人資産を保有し、長者番付1位にもなった清原達郎氏。彼がファンドを立ち上げるに至るには、新入社員として入社した野村證券時代に海外部門に勤めた経験が大きいという。
書籍『我が投資術 市場は誰に微笑むか』より一部抜粋・再構成し、中東に赴任した際のエピソードを紹介する。
わが投資術 市場は誰に微笑むか #2
開拓した顧客に損をさせ、また一から顧客開拓をやり直し
サウジでは他にもこんなことがありましたねえ。常務とエレベーターホールで待ち合わせをしていると背の高い男が来て「お前、邪魔だからどけ!」と言われたのです。なんでも、もうすぐ王族の女性がここを通るとかで。
私は「自分はこのホテルのゲストだ。今ここで待ち合わせしているところだ。お前にああだこうだ言われる筋合いはない」と言ったら首をまれて投げ飛ばされました。こんな経験は後にも先にも初めてでしたねえ。
苦い思い出はほかにもあります。サウジアラビア出張は2月などの冬に行くのですが、現地はとにかく暑い。ホテルはギンギンに冷やされていて、外との気温格差が強烈。ホテルに出たり入ったりするだけで自律神経がやられて具合が悪くなります。また、中近東訪問の際には支店のあるバーレーンに最初に行くのですが、バーレーンの空港のチャイムは陰気すぎます。まずここで暗い気分になります。
「何で本題とは関係ないこんな話を書くの?」と思われるかもしれませんね。それは皆さんに「中近東は自分の金でいくところじゃない」と強く訴えたいからですよ。それは冗談として、中近東で私はこう思いました。
バーレーン支店の「軍曹」はとても優秀な方でした。留学もされて英語も堪能。軍曹の顧客が運用で決まって損をするのは、回転売買で手数料をボッタくるからというだけでなく、「腐れ玉」(行き場をなくしてしこっている株)をはめ込んで本社の株式部にいいところを見せたいという理由もあったと思います。バーレーンで日本株の営業をやっていても、そのうち忘れられて出世とは縁遠くなっていきますから。
「本部に存在感を示さないと」という理由で頑張るなんてあまりにも惨めなサラリーマン生活ですよ。せっかく開拓した顧客に損をさせ、また一から顧客開拓をやり直し、そんなことを何年続けても結局本社からは評価されず、お客からの評価も悪くなって人的財産も残らないなんて悲しすぎませんか?
軍曹はもっと若い時に野村證券を辞めるべきでした。軍曹は私より10歳ほど年上だったので、その世代ではまだ外資系への転職は当たり前ではなかったのかもしれません。この経験を経て、私の「この会社を絶対に辞める。そのために準備しなきゃ」という決意はさらに強くなりました。
結局、海外投資顧問室では2年ちょっと働きましたが、強烈な仕事量でした。いろんな業界の通訳をやったので各業界についてものすごくたくさんの知識を得ることができました。
その後は、スタンフォードビジネススクールに留学することになります。留学前日、徹夜で部下の書いたファナックの英語のレポートを全部書き直し、朝早くに寮に戻って荷物をまとめ、そのまま留学先のカリフォルニアのスタンフォードに向かいました。あのまま海外投資顧問室で仕事を続けていたら2年後には入院していたかもしれません。
清原氏写真/書籍『我が投資術』より
その他写真・イラスト/shutterstock
わが市場 市場は誰に微笑むか (講談社)
清原達郎
2024/3/1
1,980円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4065350355
話題沸騰 連続重版たちまち15万部突破!
個人資産800億円超。長者番付1位となった伝説のサラリーマン投資家・清原達郎。咽頭がんで声帯を失い、引退を決めたいま、全人生で得た株式投資のノウハウを明かす
■新NISA完全対応! すべての投資家のバイブル誕生
私には後継者がいない。ならばすべてのノウハウを全部世の中に「ぶちまけてしまえ」という気持ちになった。今や株式市場は「個人が自由に儲けることができる市場」です。2024年からは新NISAも始まりました。「やらなきゃ絶対損」という個人にとっては夢のような制度です。(本書より)
■株式投資に才能など存在しない。「自分の失敗からどれだけ学んだか」だけだ。
《目次》
■第1章 市場はあなたを見捨てない
間違っても損をするとは限らない 正しかったら儲かるとは限らない/投資のアイデア=株価に織り込まれていないアイデア/すべての情報にはバイアスがかかっている/情報収集に金をかける必要はなし/投資家は相場に勝てるのか/パッシブ運用vs.アクティブ運用 ほか
■第2章 ヘッジファンドへの長い道のり
野村證券入社──抱いた「強烈な違和感」/損をする個人投資家のパターン/北尾吉孝氏に救われる/軍曹/「腐れ玉」の行方/「ロング・ショート運用」の夜明け ほか
■第3章 「割安小型成長株」の破壊力
実は役に立たない「PBR」/キャッシュニュートラルPERの問題点/「1段階モデル」は低PER株に有効/金利が上がると、高PER株は不利?/「イメージの悪い業界」こそチャンス/バリュエーションの梯子を上る/資金100万円で「割安小型成長株」投資/「成長株投資」と「バリュー投資」の違い/マザーズ(グロース)は「最悪の市場」/「トレンドフォロワー」と「コントラリアン」 ほか
■第4章 地獄の沙汰は持株次第─25年間の軌跡
K1ファンドの運用スタイルの変遷/ファンドのパフォーマンス ほか
■第5章 REIT─落ちてくるナイフを2度つかむ
まさかのIPO「20億円分」当選/リーマンショックとREIT暴落
■第6章 実践のハイライト─ロング
■第7章 実践のハイライト─ショート・ペアートレード
個人投資家には個別銘柄のショートは勧められない/ショートの分散投資はおろかな行為/日経225指数の闇/ようやくわかったショートの勝ち方 ほか
■第8章 やってはいけない投資
ESG投資はナンセンス/未公開株は決して買ってはいけない ほか
■第9章これからの日本株市場
10年以内に起きる破滅的リスク/今後の日本株を取り巻く環境「8」の予想/縮小を続ける内需/日本株ショーテッジ時代の到来 ほか