2時間ドラマの嚆矢となった『土曜ワイド劇場』

この反響を受けて、NETのなかに2時間のテレビ映画(当時は和製英語で「テレフィーチャー」と呼ばれた)を制作するためのプロジェクトチームが組まれた(大野茂『2時間ドラマ40年の軌跡』、13‐16頁。以下の2時間ドラマの歴史の概略については、基本的に同書に基づく)。

こうして実現したのが、2時間ドラマの嚆矢となった『土曜ワイド劇場』である。初回の放送は1977年7月、NETテレビが略称をテレビ朝日に変更して間もなくのことであった。

このとき放送されたのが、『時間(とき)よ、とまれ』という渥美清主演の刑事ドラマだった。その後文芸作品やメロドラマなども制作されたが、視聴率をとれるという観点から最終的にミステリー、サスペンスが基本路線となっていく。

とはいえ、ミステリーやサスペンスを売りとするのは刑事ドラマだけではない。探偵ものもある。実際、『土曜ワイド劇場』開始時の停滞状況を打ち破ったのは、探偵ものの「江戸川乱歩の美女シリーズ」だった。

主演の天知茂が名探偵・明智小五郎を演じるおなじみの推理ものである。しかも謎解きの面白さだけでなく、そこに江戸川乱歩らしく怪奇とエロスの要素が加わった。猟奇的な事件が毎回のように起こり、必ずと言っていいほど女性のヌード場面が登場する。

ヌードが登場するのは、殺人シーン以外にも入浴シーンであることが多かった 写真/Shutterstock.
ヌードが登場するのは、殺人シーン以外にも入浴シーンであることが多かった 写真/Shutterstock.

そして同シリーズの2作目『浴室の美女』が20.8%という、『土曜ワイド劇場』で初めて20%を超える視聴率をあげた。これで路線が定まったのである。

これをきっかけに、初回の視聴率が良かった作品が次々とシリーズ化されるという流れが生まれた。

とりわけ、松本清張、森村誠一、内田康夫、さらには西村京太郎や山村美紗ら人気推理作家の作品を原作にしたシリーズものが『土曜ワイド劇場』の売りになっていった。

たとえば、刑事ドラマではないが、市原悦子主演で人気シリーズとなった『家政婦は見た!』(1983年放送開始)も、元々は松本清張の小説が原作である。

そうして番組開始から2年後には全体の3割がシリーズものになった。その結果、開始当初の3か月は平均10.3%だった視聴率が1979年1~3月には14%、さらに1980年1月の調査では18.7%と上昇を続け、2時間ドラマはテレビドラマの世界において確固たる地位を築く。

その好調ぶりを見て、他局も『火曜サスペンス劇場』(日本テレビ系、1981年放送開始)、『ザ・サスペンス』(TBS系、1982年放送開始)をスタートさせるなど2時間ドラマ枠を新設して追随した。