もう一人の自分に向かって書く
三宅 十代の自分は地方にいたけれど、インターネットにいたお姉さんや、ブックオフと出会えたからこそ、読書という趣味を楽しむことができた。そんな感覚があるんです。
だから、今度は自分がそういう存在になれたらいいな、という気持ちがあって、本を書いていますね。
水野 なるほどなるほど。
三宅 なんとなく何かを書くとき、「今みたいにならなかった自分」に向けて書いているような側面もあります。自分の中に、もう一人の「if三宅香帆」がいる、みたいな。そのif自分は高知にいて、文化系の仕事はしていない。でも本を読むのは好きでインターネットは見ていて……。そんな「もしも」の世界線にいるかもしれない「if三宅香帆」も楽しく生きられる社会だといいなーと思って本を書いている気もします。
水野 三宅さんの著書は「if三宅香帆」に対して書いているということですか。
三宅 そういうところもちょっとありますね。
水野 そう考えると面白いですね。もしかすると、自分が「ゆる言語学ラジオ」をやっているのも、そういう感覚なのかもしれないです。
僕が進学した名古屋大学は、多くの人がトヨタ系の会社をはじめとする地元のメーカーに就職していくので、もしかしたら自分もそうなっていたのかもしれない。その自分でも「ゆる言語学ラジオ」は楽しめるように作ってる。番組のコンセプトは「高校生の自分に聞かせたい」としているので、そういう意味では三宅さんと同じ感覚なのかもしれないですね。
取材・構成:谷頭和希 撮影:内藤サトル