もう一人の自分に向かって書く

三宅 十代の自分は地方にいたけれど、インターネットにいたお姉さんや、ブックオフと出会えたからこそ、読書という趣味を楽しむことができた。そんな感覚があるんです。
 だから、今度は自分がそういう存在になれたらいいな、という気持ちがあって、本を書いていますね。

水野 なるほどなるほど。

三宅 なんとなく何かを書くとき、「今みたいにならなかった自分」に向けて書いているような側面もあります。自分の中に、もう一人の「if三宅香帆」がいる、みたいな。そのif自分は高知にいて、文化系の仕事はしていない。でも本を読むのは好きでインターネットは見ていて……。そんな「もしも」の世界線にいるかもしれない「if三宅香帆」も楽しく生きられる社会だといいなーと思って本を書いている気もします。

水野   三宅さんの著書は「if三宅香帆」に対して書いているということですか。

三宅   そういうところもちょっとありますね。

水野   そう考えると面白いですね。もしかすると、自分が「ゆる言語学ラジオ」をやっているのも、そういう感覚なのかもしれないです。
 僕が進学した名古屋大学は、多くの人がトヨタ系の会社をはじめとする地元のメーカーに就職していくので、もしかしたら自分もそうなっていたのかもしれない。その自分でも「ゆる言語学ラジオ」は楽しめるように作ってる。番組のコンセプトは「高校生の自分に聞かせたい」としているので、そういう意味では三宅さんと同じ感覚なのかもしれないですね。

「本を読まない人」に読書の楽しさを伝えるためには?文芸評論家・三宅香帆が「ゆる言語学ラジオ」の水野太貴と考える_5
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取材・構成:谷頭和希 撮影:内藤サトル

なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅 香帆
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
2024年4月17日発売
1,100円(税込)
新書判/288ページ
ISBN: 978-4-08-721312-6
【人類の永遠の悩みに挑む!】
「大人になってから、読書を楽しめなくなった」「仕事に追われて、趣味が楽しめない」「疲れていると、スマホを見て時間をつぶしてしまう」……そのような悩みを抱えている人は少なくないのではないか。
「仕事と趣味が両立できない」という苦しみは、いかにして生まれたのか。 自らも兼業での執筆活動をおこなってきた著者が、労働と読書の歴史をひもとき、日本人の「仕事と読書」のあり方の変遷を辿る。
そこから明らかになる、日本の労働の問題点とは? 
すべての本好き・趣味人に向けた渾身の作。

【目次】
まえがき 本が読めなかったから、会社をやめました
序章   労働と読書は両立しない?
第一章  労働を煽る自己啓発書の誕生―明治時代
第二章  「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級―大正時代
第三章  戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?―昭和戦前・戦中 第四章  
「ビジネスマン」に読まれたベストセラー―1950~60年代
第五章  司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン―1970年代
第六章  女たちのカルチャーセンターとミリオンセラー―1980年代
第七章  行動と経済の時代への転換点―1990年代
第八章  仕事がアイデンティティになる社会―2000年代
第九章  読書は人生の「ノイズ」なのか?―2010年代
最終章  「全身全霊」をやめませんか
あとがき 働きながら本を読むコツをお伝えします
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