文化資本を支えたインターネット
水野 センシティブな話ですが、この問題は、地方出身かそうではないかで問題の解像度が大きく変わると思います。東京のカルチャー畑にずっといると、この事実は見えにくいと思う。
三宅 私は、「東京に生まれて、学校の友達と本を貸し借りする」人生に昔は憧れてました(笑) 「私も東京に生まれていたら、高校生の時から友達とコミケに行きたかった!」みたいな。
水野 本当にそう思いますね。
三宅 社会学の議論から「文化資本」という言葉が最近は流行していますが、個人的にはそこで言われている文化って、ただ本や漫画を読んで情報摂取することだけを指しているわけではないと思うんです。たとえば作品を通してコミュニケーションして新しい作品を知る、あるいはたくさんの作品にアクセスするハードルが低いことそのもの、それが文化資本なのではないかと。そういう意味でネットが普及した現代でもやはり文化資本の地域差は存在しているのかなと思います。私はかなり恵まれていたので、自分が恵まれていなかったと言いたいわけではないのですが。
私の場合、周りの人とは本の話ができなくてもインターネットで読書ブログを更新するお姉さんが、ブログでいろんな本を教えてくれていたんですよ。東京の女子校に通うお姉さんでしたが、中1からずっとその方のブログを読んでいた影響がすごく大きい。
水野 早熟ですね(笑)
三宅 インターネットが友達だった(笑) そのお姉さんが、恩田陸や氷室冴子、はやみねかおるなど、いろいろな作家のことをブログに書いてくれていたんです。そこで紹介されているものを図書館で借りて読む生活をずっとしてたなあ。本やインターネットって、地方にも届くじゃないですか! 本当にありがたかった。
水野 最高ですね。僕もインターネットはそこそこやっていて、そこで神聖視されている作品から、いろんな作品の知識を得ましたね。当時、2ちゃんねるではみんな『寄生獣』を褒めていたし、あとは『ベルセルク』とか、ネットでしか知ることのできない作品がたくさん紹介されてましたね。
あと、個人的には、『世にも奇妙な物語』の話が全部一覧になってるサイトで、その原作を書いている作家の本を片っ端から読んでいた(笑)
三宅 すごい(笑)
インフラとしてのブックオフ
水野 そうやって読んでいくと、最初は星新一や小松左京から入って、だんだんと1980~90年代のSFを読みたくなってくるんです。でも、新刊本でないので、本屋にはない。注文を入れても版元にないと言われ、そうすると、ブックオフの出番になる。
三宅 ブックオフ、偉大ですよねえ。
水野 そうなんです。車で1時間圏内のブックオフを調べつくして、SF好きのおじさんが近所に住んでいる店舗を把握したりしてましたね。そういう地域のお店は、やけにSF小説の在庫が充実してるんですよ(笑)
三宅 うわ、高校生の時に私も『風光る』という長い漫画を集めていたとき、「近くのブックオフには途中までしかないから!」と親に言って、車で40分かかる大きいブックオフに連れていってもらって買いました!
水野 小学校の頃とか、休日は親がテレビを見てると、電源を勝手に消してブックオフに連れて行くようねだるっていう(笑)
三宅 私も小学生時代、夏休みに開店と同時にブックオフに行きまくっていたら、待ち時間が暇すぎて、同じく開店を待っていたであろう男の子と話してましたね……
水野 最高ですね。ブックオフに友達がいるっていう。
三宅 友達にはならないんです(笑) 開店したらそのまま違うコーナーに行くから。
水野 (笑) 「ゆる言語学ラジオ」を一緒にやっている堀元(見)さんも、札幌のブックオフにだいぶお世話になったらしいです。
三宅 私たちと同世代の地方出身って、かなりブックオフにお世話になっていますよね。その貢献度、本当にすごい。
水野 まさにインフラですよね。
三宅 私たちの世代の書き手にとって、ブックオフは上の世代の方々が思うよりずっと大きい影響力があったのではないでしょうか。