AST・ALT
健診での肝機能検査の代表は、AST、ALT、γ-GTPの3項目です。この3つは職場健診や特定健診の必須項目に入っています。
ASTは以前はGOT、ALTはGPTと呼ばれていましたが、国際的な名称変更が行われ、今のようになりました。しかし変わったのは名称だけですから、以前の数字をそのまま参考にすることができます。
この2つは肝細胞に多く含まれる酵素で、肝臓が障害を受けると、血中に大量に溶けだしてきます。そこで逆に、血液中の濃度を測定すれば、肝臓の状態が推定できるというわけです。
両者の違いは、それらを多く含んでいる臓器の違いです。ALTは肝臓や胆管だけに多く存在するので、もし血中濃度が上昇してきたら、ほぼ確実にそれらの臓器に問題があることが分かります。一方、ASTは心筋や赤血球中にも多く存在するため、肝臓以外の病気でも上昇することがあります。
日本人間ドック学会の基準値は、AST、ALTとも表22のようになっています。ただし病院や検査会社によっては異なる基準値を使っていることがあります。御自身の健診結果を見て確認してください。
AST、ALTとも30U/L(国際単位)以下なら正常と判定されますが、51以上になると「異常」とされます。しかし両方とも100以下なら、多くの医者はあまりうるさいことは言わないでしょう。大抵は経過観察や食事指導、飲酒制限などで済むはずです。
AST、ALTともに100を超えてくると、肝臓に問題ありという判断になります。慢性肝炎や脂肪肝などの可能性が出てきます。その場合、ALTがASTより高ければ、アルコール性肝炎かもしれません。
また両方とも300を超えると、入院となりそうです。さらに500を超えると急性肝炎の可能性が強くなり、かなり危険な状況と言えます。ただし健診の結果が届くより先に、具合が悪くなって病院に行くことになるでしょう。
ASTのみが高いと、心臓が悪い可能性が出てきます。心不全や心筋梗塞で心筋が壊れると、ASTが血中に出てくるからです。
実際、ASTは心臓病の診断指標のひとつになっています。もちろん本当に心筋梗塞だったら、悠長に健診を受けるどころではありません。しかし心不全の初期など、自覚症状がほとんど出ていない段階なら、ASTがきっかけで見つかることもあり得ます。
表23は令和2年度(2020年度)の、東京都の特定健診の結果です。ASTは男女とも、異常(51以上)が少なく、大半のひとが基準範囲に入っています。
ALTについては、男性で若い年代ほど、異常の割合が高くなっています。しかし年齢とともに、徐々に減っているところが注目です。だんだん酒量が減るからか、肥満が解消されるからか、理由は分かりません。しかし現役世代でALTが高かったとしても、歳を取れば下がってくると思えば気が楽です。
なおASTの血中濃度は、肝臓を酷使しなければ10〜20時間で、ALTは40〜50時間で半減すると言われています。これらの数値が高いのは飲酒が原因だという自覚をお持ちのかたは、健診の3日前から断酒しておけば、意外といい結果が出るかもしれません。