NSCでは「Cクラス」だった山内

「濱家くんはとにかく器用で多才。将棋も手品も料理もあっという間にプロ並みに上達してしまう。なのにけっして小さくまとまることなく、NSC時代からスケールの大きさを感じさせていました。

一方の山内くんは、NSCのAからCまでの3クラスのうち、おもしろくない生徒が集められるCクラスだったけど、マイペースで独特の味があった。このふたりが組んだら、どんなおもしろい漫才が生まれるのか、とても楽しみにしていました」

と、修行時代のかまいたちのポテンシャルの高さを振り返る、吉本NSCの伝説の講師・本多正識氏。

かまいたちの山内(左)と濱家(右) (写真/産経新聞社)
かまいたちの山内(左)と濱家(右) (写真/産経新聞社)

その本多氏が、かまいたちがメジャー芸人へと踏み出す一歩になったと考えている瞬間がある。それはコンビ初期の当たり芸、「謎の中国人チャン・ドンゴン・ゲン」キャラをふたりがすっぱりと捨てきったときだったという。

この芸が生まれたのは2004年のコンビ結成から 2年ほどが経った2006年のこと。山内がチャイナ服姿の謎の中国人チャン・ドンゴン・ゲンに扮し、手にした銅鑼を激しく打ち鳴らしては、「あなたが好きだから~っ!」と絶叫するというなんともシュールなギャクだった。

このギャグを武器に山内はその年のR―1(吉本興行主催のピン芸グランプリ)に初参戦し、いきなり準決勝進出を果たしただけでなく、テレビ局からは「あのおかしな中国人キャラをやってほしい」と名指しで出演依頼が多数舞い込むことになる。「チャン・ドンゴン・ゲン」キャラは初期のかまいたちにとって大切な出世芸となっていた。

ただ、NSC講師として折に触れてふたりにアドバイスを送っていた本多氏は、このギャクをふたりがいつ封印するのか、辛抱強く見守っていたのだという。

「あのギャクはいわゆる一発芸なんです。脈絡もなく山内くんが『あなたのことが好きだから~!』と叫びながら、ゴ~ン、ゴ~ンと銅鑼を大音響で打ち鳴らす。その突拍子のなさがウケていただけで、けっしてふたりの話芸が評価されていたわけではない。

わたしも何度も生でこの芸を見ましたが、印象に残っているのはけたましい銅鑼の音だけで、ふたりの話芸はまったく記憶にない。こんな飛び道具のような芸はすぐに飽きられてしまいます」

かまいたちは一発ネタで終わる芸人などではない。本格ネタで勝負できるだけの才智を秘めている――。そう評価していた本多氏は、そこでふたりにこんなアドバイスをしたという。