鳴り止まないNOMOコール
ペナントレースも押し迫ってきたあたりから、優勝の夢を語る野茂の言葉には自然と熱がこもっていった。
「みなさん勘違いしてるんですよ。僕がこれほど優勝に憧れているのは、今まで優勝したことがないからではなくて、社会人時代に小さな優勝を経験しているからなんです。だからこそプロで、もっと大きな優勝を手に入れたい。仲間たちと心から喜びを分かち合いたいと思うんです」─
野茂は新日鉄堺での3年目に大阪の都市対抗第1代表となっている。
近鉄時代は、投手タイトルをほしいままにしていた野茂だが、個人表彰の喜びとチームメート全員で味わう喜びでは、感激の度合いも全然違ったということなのだろう。
逆に言えば、ドジャースにはともに喜び合える仲間がいるからこそ、これほどまでに優勝に固執していたのだ。
優勝決定直後に、こんなシーンがあった。
最後のアウトとなるセカンドフライをキャッチしたデシールズ(現セントルイス・カージナルス)が、ウィニングボールを野茂に手渡したのだ。そして彼は言った。
「誰に渡そうかと思ったけど、ふさわしいのは、やっぱり野茂だね。それは今日の試合に限ったことではなくて、今シーズンの彼の功績を考えても受け取るのは彼であるべきさ」
シャンパン片手に大はしゃぎする野茂の姿は、無邪気な野球少年そのものだった。それは単身、海を渡り、一騎当千のメジャー・リーガー相手に命懸けの闘いを演じてきた男に、神が与えた、ささやかなる報酬のようにも見えた。
そしてシャンパン・ファイトが終わってからも、仲間からの「NOMO!NOMO!」のシュプレヒコールが止むことはなかった。(解説・二宮清純)
モノクロ写真/書籍 『ドジャー・ブルーの風』より
写真/shutterstock