鳴り止まないNOMOコール

ペナントレースも押し迫ってきたあたりから、優勝の夢を語る野茂の言葉には自然と熱がこもっていった。

「みなさん勘違いしてるんですよ。僕がこれほど優勝に憧れているのは、今まで優勝したことがないからではなくて、社会人時代に小さな優勝を経験しているからなんです。だからこそプロで、もっと大きな優勝を手に入れたい。仲間たちと心から喜びを分かち合いたいと思うんです」─

野茂は新日鉄堺での3年目に大阪の都市対抗第1代表となっている。

近鉄時代は、投手タイトルをほしいままにしていた野茂だが、個人表彰の喜びとチームメート全員で味わう喜びでは、感激の度合いも全然違ったということなのだろう。

逆に言えば、ドジャースにはともに喜び合える仲間がいるからこそ、これほどまでに優勝に固執していたのだ。

野茂英雄「シャンパンかけが始まって5分もするとマスコミが入ってきたので邪魔になったというか…」ドジャース初年度に地区優勝を果たした野茂の手記_3
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優勝決定直後に、こんなシーンがあった。

最後のアウトとなるセカンドフライをキャッチしたデシールズ(現セントルイス・カージナルス)が、ウィニングボールを野茂に手渡したのだ。そして彼は言った。

「誰に渡そうかと思ったけど、ふさわしいのは、やっぱり野茂だね。それは今日の試合に限ったことではなくて、今シーズンの彼の功績を考えても受け取るのは彼であるべきさ」

シャンパン片手に大はしゃぎする野茂の姿は、無邪気な野球少年そのものだった。それは単身、海を渡り、一騎当千のメジャー・リーガー相手に命懸けの闘いを演じてきた男に、神が与えた、ささやかなる報酬のようにも見えた。

そしてシャンパン・ファイトが終わってからも、仲間からの「NOMO!NOMO!」のシュプレヒコールが止むことはなかった。(解説・二宮清純)



モノクロ写真/書籍 『ドジャー・ブルーの風』より
写真/shutterstock

ドジャー・ブルーの風
野茂英雄
ドジャー・ブルーの風
2024年3月19日発売
638円(税込)
文庫判/208ページ
ISBN: 978-4-08-744632-6
大谷翔平、山本由伸が2024年シーズンからプレーすることとなったLAドジャース。ドジャースといえば日本人メジャーリーガーの先駆者、野茂英雄氏が活躍した球団。2024年MLBシーズン開幕直前のタイミングで、大先輩・NOMOの独占手記を新装版で復刊! ドジャース移籍初年度の振り返りと2年目のシーズンを前にした抱負、当時の日本プロ野球界への提言など。さらに文庫版特典として、伝説のノーヒットノーランを含む2年目の1996年シーズン全登板成績も収録。今こそ彼の言葉を読み返すべし!
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