グローバル化が産み落とした「新たな搾取」

もともとグローバル化は、世界に繁栄をもたらし、生活水準の向上をもたらすと言われていました。たしかに、それは真実と言えるでしょう。

例えば、グローバル化のおかげで、中国やインドをはじめとする、多くの発展途上国には、新たな中産階級が生まれたという事実もあります。

ただ人々が見ようとしなかったのは、グローバル化とは、新しい種類の「グローバルな労働者階級」として、世界中の労働者を利用することを意味していたという点です。これによって生み出されたのが、フランス語や他の言語で言うところのまさに「プロレタリア」です。

そしてグローバル化の名の下に、「不労所得者国家」と化した欧米列強によって、グローバルな労働者階級に対する新たな搾取が行われているのです。

世界全体と西欧の間、西欧とそれ以外の国々との間には、19世紀のヨーロッパと同じような対立が生じています。

19世紀、ブルジョワジー(上流階級や中流階級)と、労働者階級の間には対立がありました。なぜなら、そこには搾取のメカニズムがもともと内在しているからです。

だから、新たな搾取を行う西洋に対して、それ以外の国が敵対心を抱くのは、当たり前のことなんです。

もちろん、西洋が生み出しているイデオロギー、極端なフェミニズム、道徳的なリベラリズムの強要などは、西洋以外のより保守的な国の多くを不快にさせています。

そして、もはや共産主義国ではないロシアは、近寄りやすい国になりました。かつての共産主義は、イスラム教徒や信仰心の厚い国々にとって恐ろしい存在でした。

しかし今の世界各国からすれば、プーチンのモラルの面における保守主義は、「ゲイの問題こそが組織や社会の最重要問題である」と強いる西欧の新たな傾向や、トランスジェンダーの問題に対する西洋の固執よりも、はるかに身近に感じられるのです。

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西洋人である私は、どちらに賛同すると表明しているわけではありません。私は、欧米で起きていることにはショックを受けていません。ただ、周囲の人々が私たちをどのように受け止めているのかを、理解するべきだと言っているのです。

このように、「西洋対世界」の対立にはたくさんの理由があります。しかし、何よりも驚くべきは、私たち自身が驚いていることそのものです。

ロシアが世界から好かれる理由は、たくさんあります。それにもかかわらず、こうした指摘に対し、私たちが驚いていることに、私はただ驚いています。


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