「薬で痩せる」という危険な魅力

そして2月22日、ついに発売になったウゴービ。

現状の問題を整理すると、結局のところ「一般的なダイエット目的においては、ウゴービはどこまでいっても“適応外”であることから逃れられない」ということになる。

この「適応外」には二重の意味があり、一つは「2型糖尿病患者への薬が、気軽なダイエット目的に使用されること」、もう一つは「治療が必要な肥満症患者への薬が、気軽なダイエット目的に使用されること」だ。

これはウゴービが安定供給されることが前提条件になるが、今回の保険適用により、2型糖尿病治療薬の適応外使用は少なくなるかもしれない。2型糖尿病患者の命に関わる“品薄状態”が発生しなくなるのは、前進といえるだろう。

しかし美容や体型維持のニーズが高いことを考慮すると、その意味での適応外使用はこの先も減らないだろう。ウゴービが安定供給されなければ、一部の医療機関がまたも2型糖尿病治療薬の適応外使用に走ることも起こり得る。

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今回の保険適用により、逆に言えば「薬で痩せる」ことが可能だと周知されてしまった。人間の欲望は限りなく、食事制限や運動よりも簡単に痩せられると知れば、多くの人が興味を持つことだろう。

しかし、それは本来、重篤な副作用のリスクを伴う行為だ。こうしたデメリットを、治療のメリットが上回ったときのみ、薬が処方される。つまり、気軽なダイエットのためにウゴービを使うことは、最初からデメリットのほうが大きい行為になる。

特に自由診療などの適応外での処方は、市場の原理が働きやすく、ニーズが高ければそれが提供される。しかし、生活者はそれを求めるべきではない。そして同時に、提供する医療者側の倫理観も問われているのだ。

文/あまのなお