関川夏央さんに
書く面白さを教わった

金原 映画大学で作家の関川夏央さんのゼミで、書く面白さに目覚めたと聞きました。

大田 関川さんってもう三十個も四十個も年違うけど、文章から滲むキャラクターに何かめっちゃ魅了されちゃって、かっこいいなと思った。大学の授業では、こういうテーマで書いてきてと言われて書いていくと、毎回面白がってくれるんですよ。もちろん授業なので、ここが駄目と言うんですけど、同じぐらいいいところも見つけてくれるので、みんなモチベーション高まって帰っていく。

金原 えー、すてき。

大田 すごく肯定されて終わるので、自分に何か才能あるんじゃないかなみたいな感じになれる(笑)。また課題が面白いんです。自分の死亡記事を書けとか、祖父母について、家族に聞いて伝記を四千字で書きなさいみたいな。

金原 へー、結構しっかりした枚数書くんですね。

大田 でも、成績で評価されるよりは、単純に関川さんの見たことないリアクションを引き出したいほうが強くなって、だんだんみんなと違うことをし始めちゃって(笑)。その死亡記事のときも、みんなは自分の人生のリアリティで書いてきたんですけど、うち、最後に宇宙に行って死んじゃう記事を書いたので、関川さんも困っちゃって(笑)。でもね、そういう、何でも書いていいんだ、書くって楽しいんだというのを教えてもらった感じです。

でもやっぱり
書くのは不安で苦しい

金原 『みどりいせき』も、書いてて楽しかったですか。

大田 いや、このときは正直もう、不安しかなかったです。
 どうまとまるかも不安だったけど、今後自分の人生がどうなるかの不安もあって、しんどかったですね。力み過ぎてもダメだから、頑張り過ぎないように、でも焦ってる自分を押し殺し過ぎないようにみたいな、そのバランス、自分の情緒を守ることがすごい大変で、翻弄されてました。一緒に暮らしてるかおりんにも迷惑かけっ放し。

金原 意外だ、そうだったんですね。

大田 普段はするけど書く時は家事何もしなかったんで。でも、かおりんも平日仕事遅いから、荒廃するスピードが桁違いになっちゃって。

金原 でも作品には切迫している感は全然なかったです。自由に飛び回っているイメージを持って読んでました。

大田 自分のフリーな部分を殺さないように書き出して、その後で真面目なほうの自分でそれを直していったという感じなので、最初に出ていた自由な自分は多分半分ぐらい死んでるんですよ。それを感じさせない書き方だっただけで、実際はもうめっちゃへとへとでした。

金原 すごくうまく隠せてます(笑)。最初は勢いに乗せられて読んで、自由に泳ぎ回っているようなイメージを持ちましたけど、改めてうまさが見えてきたときに、あれ、これは結構やばい作家なんじゃないかと恐ろしさを感じたんです。

大田 やば。恥ずかしい(笑)。

金原 きっとその自由な力と、統制する力の絶妙なバランスによって、すごいものを生み出したんですね。

大田 きゃあ、ありがとうございます。

ひとみ姉さんの
背中を追わせてください

金原 小説の合間に、バタフライエフェクトの話とか、縄文人の土器の話とかが自然に入り込んでくるのもよかったです。土器の話をこんな面白く書けるのかって、驚きました(笑)。

大田 ああいう、壮大過ぎる譬え話してくるやついません?(笑) すごいシリアスな失恋の話をしてるのに、「でも、地球はさ」とか「宇宙はさ」とか、煙にまいてくるやついるじゃないですか。さっきの逃げる話とつながるかもしれないですけど、ああいう挿話が入るときは大体恥ずかしがっているんです。裏で大事な話をしてるから、それをくみ取られたくなくて、全然違う、別の面白い話で隠してるという感じです。

金原 なるほど。やっぱりそういうとこ面白い。

大田 単純に恥ずかしがりだから、素直なメッセージそのまま載っけると、めっちゃ、あーってなっちゃう(笑)。説教くさくなりたくないんですね。

金原 でも、その一つ一つの煙にまくやり方もすごくスタイリッシュなんですよね。土器っていうチョイスが絶妙にマッチしているんです。

大田 それは膨大な知識量の中からチョイスしてるんじゃなくて、単純にそのときの身の回りのホットなトピックをピュッと抜いているだけなんですけど。

金原 いやそれは引き寄せているんだと思います。今日あったこととか、最近面白かったことをいい形で入れられるというのは、ものすごい強みだと思う。私もかなり現実の話や体験を入れ込む方で、絶対この話を入れたい、どこに入るかなみたいなことを常に考えてたりします。

大田 ずっとひとみ姉さんをリスペクトしてるところはそこにあるんですよ。うちはヒップホップがすごい好き。ラッパーって身近なことを歌ったり、もしくは自分の情けなかったり、ダサかったりした昔のことを歌って、聴いてもらうスタイルじゃないですか。ひとみ姉さんもそのまんま。だから、すごい勇気もらえる。作品も書くスタイルも、背中を追わせてくださいみたいな感じでずっと……。

金原 それは、めっちゃうれしい。

大田 めちゃくちゃかっこいいんですよ。全然関係ない話ですけど、かおりんは一緒に暮らす前、独り暮らしで仕事でつまずいて情緒がインフェルノしてたときに、ひとみ姉さんの本が支えになったって。それぐらい人の支えになるものをうちも書きたいっす。

金原 いや、なりますよ。私、ほんとに、全ての若者たちに届けって思ってます。こんな小説読んだら、自分自身の今目の前にあることが、全部吹っ飛ぶんじゃないかな。読み終えたときに無双って気分になれるし、多分世界が読む前とは全然違って見える。こんな青春小説がある時代に生まれた若者はラッキーです(笑)。自分が若かった頃にこの作品に出会ってたら、多分打ちのめされただろうなって思いましたね。

大田 いやいやいや。とんでもないっす。

金原 一緒に生きている感覚があるんですよ。主人公の翠とか春とか、読んだ人の中に生き続けるだろうなと思うくらい、強いキャラクターだったので、私はうれしくてしょうがない。世の中のしがらみとか、めんどくさいこととか、くだらないことの中で生きている人にとって、それがないところに向かって走ってる若者たちの姿には勇気づけられると思います。最後のラリッて、愛について語るシーンがすごくグッときて、読みながらパキッてしまいました(笑)。小説であんなふうに飛ぶって、すごいことです。

大田 泣きそうっす。でもあそこも愛とか、そんなのそのまんま書いたらめっちゃ恥ずくて。愛を打ち消すぐらいの隠せる材料はもうLSDぐらいしかなかった(笑)。

金原 愛について書くにはLSDっていう免罪符が必要だったんですね(笑)。

次は読む人を傷つける
小説を書きたい

大田 それと、ひとみ姉さんの『AMEBIC』は、書いているときのうちのインスピレーション本だったんです。お守りチックな感じで近くに置いて。自分の中では、やるからにはこのトリップ感を超えなくっちゃ、表現で戦っていこうって。

金原 えーうれしい。挑んでいる感じがしてましたけど、そんな挑み方をしてくれてたんですね(笑)。次の作品はもう書き始めているんですか。

大田 はい。次はあんま恥ずかしいって思いながら書いてないですね。抱えているイメージを置いてこないように、ちゃんと全部持って運んで渡り切れるかなという心配のほうがあるかもしれない。

金原 もうプロットはできていて、書ける状態ですか?

大田 そうです、そうです。次は読む人を傷つける話になります(笑)。

金原 やだな、傷つきたくない。でも絶対読みます。小説による傷つきって、常に人生に必要なものですよね。

大田 だって、ひとみ姉さんの本を読む感覚もろ体に剣を刺していく感じ。最近はすごいさわやかで、うれしいほうの刺さり方、楽しい刺さり方ですけど。とげってよく言うじゃないですか。自分の生きている世界を軸に、そういうものを全部書いていきたいです。

金原 楽しみです。また小説観を壊されるような小説を待ってます。

みどりいせき
大田ステファニー歓人
この小説は世紀の発明といっていい『みどりいせき』金原ひとみ×大田ステファニー歓人_2
2024年2月5日発売
1,870円(税込)
四六判/216ページ
ISBN:978-4-08-771861-4

【第47回すばる文学賞受賞作】
【選考委員激賞!】
私の中にある「小説」のイメージや定義を覆してくれた──金原ひとみさん

この青春小説の主役は、語り手でも登場人物でもなく生成されるバイブスそのもの──川上未映子さん
(選評より)

このままじゃ不登校んなるなぁと思いながら、僕は小学生の時にバッテリーを組んでた一個下の春と再会した。
そしたら一瞬にして、僕は怪しい闇バイトに巻き込まれ始めた……。
でも、見たり聞いたりした世界が全てじゃなくって、その裏には、というか普通の人が合わせるピントの外側にはまったく知らない世界がぼやけて広がってた──。

圧倒的中毒性! 超ド級のデビュー作!
ティーンたちの連帯と、不条理な世の中への抵抗を描く。
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