スニーカー投資から読み解く国際経済

マクロ経済的な視点から現在のスニーカーブームを眺めると、08年のリーマンショック以降の世界的な金融緩和の流れが大きく影響しています。

金融緩和によって金利が下がって市場に大量の貨幣が流通するようになると、人々は投資対象を探すようになるものです。そして、貨幣価値が下がってモノやサービスの価格が上がるインフレが引き起こされます。つまり1万円のスニーカーが来年は1万2000円で販売される、という状況が起こるのがインフレです。

経済がインフレ基調になれば「値段が高くなる前に買っておこう」という購買行動も起きやすくなりますし「お金の価値が下がってモノの価値が上がるので、手持ちの資金をモノや不動産、株式に替えておこう」というニーズも生まれます。

その結果としてアメリカの株価や不動産価格は跳ね上がりましたし、高級車やロレックス、ハイプスニーカーなどが投資的価値を持つようになっていきました。超大金持ちは高級車や不動産に、お金持ちは株式やロレックスに、そして若者はスニーカーに投資するようになったのです。いわば、スニーカーは最も身近で手頃な資産として扱われていたと言えます。

そして、従来のステイタスシンボルと言えば高級時計や車が代表格でしたが、スニーカーもそのひとつに数えられるようになってきました。先日、ヴィンテージスニーカーを扱うショップを訪れたところ、そのお店にはNBA選手から「もしオリジナルのエアジョーダン1で、30センチの新品があったら、いくらでも払う」と直接オファーが届いたそうです。

ナイキの株価にみる「スニーカー投資」の未来。価格急落のスニーカーに対し、ロレックス、ヴィンテージデニムの値が高止まりする理由_3

彼らは数十億円という年俸を稼いでいるうえに街を歩くとパパラッチに撮影されるため、たった一回履くだけのスニーカーのために何百万でも払うのです。「ルイ・ヴィトン」とコラボしたエアフォース1も同じぐらいの金額を支払えば手に入れることができますが、85年のオリジナルのエアジョーダン1の新品はお金を出しても手に入るかどうか分からない。

だからこそ、それを履いていると単にお金を持っているだけでなく「分かってる感」を出すこともできるとあって、彼らは大金を払ってでも血眼になって探すのです。

しかし、そんな状況も一気に変わりました。コロナとウクライナ危機を経て、世界的に金利引き上げのトレンドが巻き起こったからです。金利引き上げになると「消費するよりも銀行にお金を預けて増やそう」という流れになるため市場に出回るお金の総量が減っていきます。そのため、これまで余っていたお金を投資する対象のひとつとしてプレ値が付いていた商品は大きな影響を受けます。

実際に「ナイキ」の株価は2021年終わりに約179ドルを記録しましたが、2023年には100ドルあたりまで下がりました。これは既に投資家や市場は消費者がスニーカーのために支払う金額が減っていくだろう、と予測していることの証明でもあります。

また、金余りの経済のなかでトレンドリーダーたちがこぞって身に付けているレアなアイテムとしてマーケティングをおこなうことで、誰もが欲しがるアイテムとして需要を喚起し、その結果として投資財としての位置を築いたのが今のスニーカー市場の実情です。

アメリカの金利引き上げと日米の金利差によって起こった円安・物価高もスニーカーブームに水をさしました。食料品からガソリン代まで値上げになってしまうと、もともと少ないお小遣いをやりくりしてスニーカーを買っていた若者たちが離れていったからです。

生産数の増大によるレア度の減少に加えて、金利引き上げによる投資マインドの減少というふたつの要素が影響したことで、2023年に入るとバブルが弾けるように急速にスニーカー市場が縮小していきました。