その他の花の名

その他の花の地名を思いつくままに挙げてみると、まずは北海道函館市の桔梗。江戸時代からの地名で、文字通りキキョウの群生地にちなむとされ、函館本線の桔梗駅は明治35年(1902)開業と古い。もうひとつ駅名になっているのは近鉄大阪線の桔梗が丘(三重県名張市)で、こちらは高度成長期の宅地開発に伴って昭和39年(1964)に設置された。その隣には百合が丘東・西の地名が昭和57年(1982)に誕生している。

百合は意外に少ないのだが、川崎市麻生区百合丘(昭和36年起立。小田急百合ヶ丘駅周辺)や百合ヶ丘(茨城県守谷市)、百合が丘(名古屋市守山区)などが全国に点在している。兵庫県宝塚市には宝塚歌劇のシンボルにちなむ「すみれガ丘」。神奈川県平塚市は漢字で菫平(昭和33年)。砂丘上でスミレの花がよく咲くことからの命名という。

「さくら」は50〜、「うめ」は19〜、日本に梅・桜がつく地名が多いのはなぜ? 京王車庫前が桜上水へと変わった理由_4
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東急田園都市線沿線のあざみ野は新地名で、町名が昭和51年(1976)、駅はその翌年に開業した。アザミを漢字で書けば「薊」という見慣れない字だが、これを用いたのが高知県の土讃線薊野駅。安土桃山時代から文献に見えるという古い地名だが、由来は「野アザミの里」とされている。京都市上京区の木瓜原町(明治初年から)はボケの木が多かったことにちなむというが、草木瓜の多摩方言が用いられた字名「シドメ窪」は立川バスの停留所に今も健在だ。


写真/shutterstock
図・地図/書籍 『地名散歩 地図に隠された歴史をたどる』より

#2 早速誕生した令和島 元号を冠した土地名の由来
#3 歌舞伎町に歌舞伎の劇場がないのはなぜ? 日本各地の地名の歴史

地名散歩 地図に隠された歴史をたどる(KADOKAWA) 
今尾恵介
「さくら」は50〜、「うめ」は19〜、日本に梅・桜がつく地名が多いのはなぜ? 京王車庫前が桜上水へと変わった理由_5
2023年12月8日
1012円(本体920円+税)
240ページ
ISBN:9784040824772
地名には、その土地の歴史がある

内陸にも多い「海」がつく地名、「町」という名の村、地図にないのに生きている「幻の地名」……全国の不思議な地名を取りあげ、土地や日本語の由来をたどる。ひとつひとつの地名にその土地の歴史が隠されている。

【目次】
第一章 モノの名前を冠する理由
やはり梅と桜が多い「花」の地名/市場が立つ日を表す/伝説を生む歌と踊りの地名

第二章 意外な名付けられ方
「令和」の町名も誕生/囲む地名は何を囲んでいたのか/北海道の「原形」を留める地名

第三章 一筋縄ではいかない「読み」
方言漢字をご存じですか?/親不知――「返り点」を付けて読む地名/同音を重ねる地名――「おおお」も
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