旗の台で友人のアパートに居候していた?

自らを「桐島聡」と証明できなかった建設作業員“ウチダ”は、酒が進むとアイデンティティを披露したい衝動に駆られることもあったようだ。行きつけだった藤沢市内のある、バーのマスターは振り返る。

「私や親しいお客さんは『うーやん』と呼んでいましたが、『うっちー』と呼んでいる人もいましたね。几帳面だけど優しい性格で、他のお客さんともよく話してましたし、キャラが濃いからお店のマスコットのような存在だったんですよ。でも頑固なところもあって、人から奢られるのが嫌いでした。下に見られたくなかったみたいです」

“うーやん”こと内田洋の近影(知人提供)
“うーやん”こと内田洋の近影(知人提供)

愛されキャラだった“うーやん”だが、一度だけ店で大立ち回りをしかけたことがあったという。

「5年前ぐらいのことでした。隣りに座ったお客さんと大喧嘩したことがあったんです。どこかの国のことを『頭が悪い』と罵った“うーやん”に隣の人が『“うーやん”それくらいにしなよ、人種差別になるよ』ってなだめたら、『おぬしに自分の何がわかるんだ!』と怒鳴って帰ってしまったんです。

話がそのまま続いてたら、反アジアとかの話題になってたかもしれないですね。“うーやん”は酔いがまわると、相手のことを『おぬし』って言うんですよ、それもおもしろがられてた理由の一つかもしれないですね」

几帳面さは、買い物などの日常生活にみられ、空いたペットボトルを購入したスーパーに持ち込んでポイントを貯めたり、タイムサービスの20%引きの惣菜ばかりを買うなどしていたという。マスターが続ける。

「住み込みで働いていた工務店には友人のツテで入ったと聞きました。岡山県出身で高校卒業後に上京して旗の台で友人のアパートに居候してたそうです。アパートの隣の質屋でギターを買い、弾き始めたとか。その後、横浜で港湾労働をしていて、それから今の工務店に行き着いたと聞いています」