売上の4割弱、来店客の5割以上がインバウンド

JR秋葉原駅から徒歩1分、通称「エロタワー」として知られ、7フロアにわたりアダルトグッズを展開する「大人のデパート エムズ 秋葉原店」(以下、エムズ)。国内最大級のアダルトグッズ専門店として知られるエムズ秋葉原店だが、2022年秋の渡航解除から訪日客が急増している。

「大人のデパート エムズ 秋葉原店」
「大人のデパート エムズ 秋葉原店」
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「現在、購買数の3割強、売上の4割弱、来店客の5割以上は、インバウンドです」

そう語るのは、店長の新家武志さんだ。アダルトショップといえば、中年男性が1人でこそこそ来店する……といった暗いイメージもあるが、現在はガラッと客層や雰囲気が変化しているという。

「もともと当店は2001年創業で、当時は中年男性の1人客が圧倒的に多かった。それが2010年頃から、家電製品を求めて秋葉原を訪れた中国人観光客が来店し、それ以降海外のメディアやYouTuberに取り上げてもらうようになり、インバウンドが増加。中国以外でもアメリカやヨーロッパ、アジア諸国の訪日客が目立つようになり、アフターコロナのいま、全盛期を迎えています」

フロアの一角にはインポートブランドのみを陳列しているコーナーも
フロアの一角にはインポートブランドのみを陳列しているコーナーも

現在は、中国、アメリカ、韓国、タイなどを中心に、人種のるつぼ状態となっているエムズ秋葉原店。インバウンドが増えた2010年頃から比べると、現在は年間売上も2倍近くに膨らんだものの、店側としては素直に喜べない事情があるようだ。

噛み終わったガムを床にポイ捨て

「インバウンドの方が、店内で飲食をしてゴミを廃棄したり、ドリンクを飲んでいたら他の客とぶつかってこぼしてしまうことがあります。床には噛んだ後のガムがへばりついていたりと、他の国内の方が困惑するのではと危惧しています。

それから会計前の商品を開封したり、店内のコンセントでスマホの充電をされたり、階段で休憩している方も。海外では普通のことかもしれませんが、そのつどお声掛けや店内放送などで注意喚起をしています」

そもそも商材がアダルトグッズなだけに、来店客からすれば周りの視線も気になるだろうし、ささっと購入したいはず。そうしたなか海外の団体客が狭い店内で立ち往生されたら、より一層居心地の悪さを感じるだろう。

「免税の対応でレジの並ぶ待ち時間が増えてしまうと、どうしても日本人の方にとっては買いにづらくなります。特に土日などのピークタイムは満員電車のように混雑してしまい、『店内でゆっくり商品を見れない』といったクレームも入ります。

あと店内は撮影禁止ですが、物珍しさに撮影していたり、なかには女性客を盗撮する人もおり、一定数マナーを守っていただけない方がいます」

1フロアの一角にはインポートグッズを取り揃えたコーナーや、海外から人気だという巫女のコスチュームが飾られている光景もあリ、海外の人にすればもはや観光スポットに近い感覚なのだろう。

インバウンドから人気の巫女のコスチューム
インバウンドから人気の巫女のコスチューム
海外メーカーの商品を買うことも多いという
海外メーカーの商品を買うことも多いという

一時期はコンドームが購入制限に

中国人による爆買いによる影響で、品薄になる弊害もあった。

「よく中国人から『コンドームを1000個買いたい』『TENGAをあるだけくれ』と言われることもありました。日本製のほうが良質のようで、2019年頃はゼロワン(オカモト社が展開する0.01ミリのコンドーム)の供給が追いつかず、1人3個までと購入制限が設けられたほどでした。

インバウンドから絶大な人気を誇る、サガミ社とオカモト社の0.01ミリのコンドーム
インバウンドから絶大な人気を誇る、サガミ社とオカモト社の0.01ミリのコンドーム

中国では風俗やAVが禁止されているものの、アダルトグッズ自体は規制されていないんです。当店では10%の免税が効くので、おそらく大量に買い込んで、現地のECなどで転売しているのでしょう。現在はメーカーが輸出している背景もあり、爆買いする人は減りましたが、なかにはカゴ10個ぐらい大量に買い込んだり、30万円のラブドールを購入する人もいますね。

他にも韓国やヨーロッパでは、関税の影響でアダルトグッズがかなり高いそうです。最近訪れた韓国人に聞くと、日本だと500円程度で買えるTENGA社のオナホールが、現地だと2000円近くすると嘆いていました。20代ぐらいの韓国人グループが、みんなで同じものを買っていく光景をよく目にしますよ。

インバウンドの購入比率が高すぎるので、売れ筋が変化して、国内のほうの需要を見失いそうになるという弊害もあります。今後もインバウンドは増え続けるので、国内と国外の来店客がともに快適になるような店づくりを心がけないといけないですね」

JTBの調査によれば、2024年のインバウンド数は、コロナ禍以前となる2019年を4%上回り、1981年の調査開始以来、過去最高となる。観光特需が起こるのはうれしいはずだが、ときと場所によっては単純には喜べないようだ。

取材・文/佐藤隼秀