大坂なおみの行動に対するNIKEと
日清食品の姿勢の差

2020年の全米オープンテニスの際に、BLM運動を支持する彼女は、警官の暴行で犠牲になったアフリカ系アメリカ人たちの名前を記した黒いマスクを着用して会場に登場した。このアピールは、運動の盛り上がりともあいまって世界的にも大きな話題になった。

大坂選手のスポンサー企業であるNIKEは、即座に彼女の行動を支持すると表明してファンやユーザーからの共感を集め、世界のメディアにも高く評価された。一方、日清はこの大坂選手の姿勢にはいっさい言及せず、「かわいい」というイメージを押し出すような応援メッセージを自社の公式SNSに寄せた。だが、このあまりに露骨な事なかれ主義的姿勢は、かえって大きな批判と反発を招く事態になった。

日清はこの前年にも、大坂選手の肌の色を白く演出したアニメーション広告で物議を醸したことがある。この日清とNIKEの対応の差は、企業の社会責任に対する姿勢が明確に分かれた典型的な例だろう。この事例は、日清が日本企業の中でもことさら波風を立てることを嫌う社風だったから発生した特殊な出来事ではなく、おそらくどの日本の企業にも通底している社会的な体質の一端が表れたにすぎない。

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これらの問題についても、本間氏は、

「日本の場合、あまりとがったことはしたくない、という姿勢がどのスポンサー企業にも共通していますよね」

と指摘する。

「NIKEのように、大坂なおみさんの主張を全面的にバックアップする姿勢を見せたり、人種・民族差別に反対するCMを率先して制作するようなことは、日本企業の場合はまずあり得ない。

では、広告代理店はまったく骨太の提案をしないのかというと、じつはそうでもないんですよ。たとえばA、B、C案と出してくる中には『一応こういう方向性もありますよ』といったふうに、社会的なメッセージの入った提案もする。だけど、そういうものを提案はしてみても、まず採用されることがない。

日本の企業は、そもそも社会的な問題を議論することに慣れていないし、メッセージに賛成してくれるユーザーがいたとしても、反発してくるであろうユーザーに対応することが面倒くさいんですよ。それなら、いっそのこと最初からやらないほうがいい。波風を立てないこと、これは昔も今も日本企業の不文律です。

そういう(社会的主張やメッセージ色が強い)ものを求める視聴者がこれだけいる、という確固たる〈数字〉が出てくれば変わる可能性もあるのかもしれないけれども、自らそれを探りにいこうとする気概は日本企業(スポンサー)にもテレビ局にも見られません。メディアの体質として、テレビ局は特にそうです。広告代理店の売り上げのうち4割近くはいまだにテレビで、つまりテレビはそれだけ彼らに依存しているわけだから、売り上げ減につながるようなことを自分たちでやるわけがない。そういう危険なことはいっさいしない、というのがテレビ局側の論理でしょう。

スポーツ番組や実況中継は、いわば〈映しておけばいいだけ〉の最高級コンテンツなんだから、そのコンテンツを危うくするようなことを自ら言うはずがない。(スポーツウォッシングに言及することが)スポーツ自体の否定ではないとしても、わずかでもそういう臭いのしそうなものは全部徹底的に排除する、という考え方ですね」