“女子バスケ部の姉御”は万人モテ

てんちむはスタッフをも虜にした。かわいくニコニコしていたのではない。Manさんは「ヤンチャな女子バスケ部って感じ」と言った。

「てんちむって芸能人なのに、汚くて冷房もない非常階段に来てタバコ休憩するんです。1部と2部の合間にタバコを咥えながら『お客さんに挨拶したいけど、全員回り切れないかも。やべー!』って焦ってたり、『○○、チップのバケツ持ってくれてありがとね!』ってバイトの子にお礼言ってたり。サバサバしているけど本当は優しい、先輩にも後輩にも分け隔てなく話す部活の先輩みたいな感じなんです。かわいいのに親近感があって、ユーチューブのてんちむそのまんまで好感度が高かったですね

普通のダンサーは「ありがとうございます〜」とにっこりするくらいで、てんちむほど近い距離でスタッフと話すことはない。期間限定のゲスト出勤なのに、とんでもないコミュニケーション力だ。

「ちょっと今日脂肪吸引してきた」1日2時間睡眠・トリプルワークでてんちむが見せたプロ根性…スタッフをも虜にした、彼女が“推される”理由_4
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こんなエピソードもある。ある日、てんちむが熱を出してしまった。当時はコロナ禍真っ只中、大勢の観客やダンサーに連日触れ合っているなかでの発症となれば、誰しも青ざめるただろう。

ところが、ManさんのLINEに届いたメッセージは「マジやらかしたかも。コロナかも!」。結局コロナではなかったので事なきを得たのだが、取り繕うそぶりのないどストレートなギャル言葉にManさんは吹き出し「てんちむ、マジ最高だな」と思ったらしい。

「丁寧に愛想よく接されるより、サバサバした近い距離感で接されるほうがうれしいですよね。ボディタッチもエロくなく『イェーイ!』ってハイタッチする感じで、こっちも仲間意識持てるし、女性としても人間としてもいいなって思いました。

地元のイケてる先輩みたいな親近感があるから、お客さんも会いたくなるんでしょうね。会いたくなるダンサーには親近感が必要なんですよ」

推しビジネスの肝は親近感だ。本当は人気インフルエンサーで遠い存在なはずなのに、身近に感じられる人間味があるとギャップが魅力になり、応援したくなり、推しになる。

ただエンターテイメントとしてショーを見るだけだと数千円で終わってしまうが、推しとなると万札が飛び交う。てんちむは1回の出勤で約100万円の売上を出した。土日出勤のみにかかわらず、『バーレスク東京』での月収は340万円を超えた。メインの客層は20代女性であり、推される力の強さがうかがい知れる。

しかし、なぜこれだけ熱狂的な女性支持を集められるのだろうか。『クラブNanae』も『バーレスク東京』も男性客がメインの店なのに、てんちむを指名するのは女性客が多かった。女性の一人客も珍しくなく、スタッフは目を見張った。

文/秋カヲリ
写真/『推される力 推された人間の幸福度』より出典

#1 「生き延びるためにプライド捨てた」豊胸炎上後のてんちむ、5億円自腹返金で再起決意も、裏アカに綴った葛藤「道化として生きて最後の金稼ぎをする」

#3 ゴキブリと一緒に寝泊まりし、芋虫にかぶりつく…2千万円を投じた海外旅で、てんちむが気づいた本当の“お金の価値”「お金は使わなかったらただの紙切れ」

『推される力 推された人間の幸福度』
てんちむ
「ちょっと今日脂肪吸引してきた」1日2時間睡眠・トリプルワークでてんちむが見せたプロ根性…スタッフをも虜にした、彼女が“推される”理由_5
2023年11月18日発売
1,870円(税込)
344ページ
ISBN:978-4910903040
「私を死なせてでもてんちむを生かす。道化になっても生き抜いてやる」

10歳から29歳まで推され続け、2023年9月に無期限活動休止した天性のインフルエンサー・てんちむの度重なる転落と再起を追い、鬼の自己プロデュースによる【推される力】を彼女の言葉と周囲の人々の言葉で赤裸々に紐解く1冊。
大炎上から半年で5億円を支払った逆転劇の裏側と、活動休止に至る葛藤とは―?

自分をさらけ出して私生活を切り売りし、人気と幸福度に向き合ったてんちむが、29歳最後の日に届けるこれまでの総決算。

「炎上後は『全身整形して別人として生きていきたい』って何度も言ってました」(アシスタント)
「たかが2億2000万円を守って、てんちむ生命を終わらせてたまるか。炎上商法と言われるものをやって、今のバッシングも全て生かして、私を死なせててんちむを生かして、道化として生きて最後の金稼ぎをするしかない」(てんちむ)
「銀座にバケモンが来たな、と思いました。こんなに売上を立てる人は見たことがないですし、たぶん今後も現れないと思います」(クラブ・黒服)
「過程から本番までの見せ方がうまくて、女性は『夢中になってるてんちむを見てると幸せ』ってなるし、男性は『無邪気で愛せる』ってなる。『コイツ、おもろいから追い続けたいな』って思うんです」(友人)
「彼女はどれだけ避けても、投げ出しても、逃げ出しても、その場その場で成功してしまった。家出して上京しても、芸能活動を辞めても、モデルを辞めても、人と向き合わなくても、それでもずっと成功してきた子なんですよね」(元恋人)

――この本を読んだあなたは、私に対してどんな印象を受けるんだろう。強い?自立?自由?破天荒?想像通り?
私はこの本を読んで「とても頑張ってるはずなのに、かわいそうな人」に見えました。この本の取材期間中は、私自身を見直す期間でもありました。(てんちむ)
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