悩みを共有できる人がおらず「万引き依存症」に──
佐々木冴子(30代・仮名)
私の専攻は日本文学で、都内の私立大学に入学し、そのまま博士課程まで進学しました。博士課程の学生は私ひとり。修士課程の学生は全員社会人入学で、研究職を目指すというより、趣味で勉強している学生ばかりでした。
同世代の友達は仕事をしているし、年を取るごとに周囲と壁ができてきた感じです。私は元々社交的ではないし、人と関わるよりひとりでいる方が楽だと思っていたのですが、本当にひとりぼっちになってしまうと、そうも言っていられなくなるものなのですね。
私は比較的裕福な家庭で育ち、学費も家族が負担してくれていたので、幸い経済的には問題がありませんでした。ところが、つい魔が差して手を染めた万引きがいつの間にか止められなくなってしまったんです……。
5~6年前、まだ私が精神的に健康だった頃、ある教員が万引きで逮捕され、大学中で噂になっていたことがありました。いい年をして万引きなんかですべてを台無しにして、なんて馬鹿なんだろうと、当時の私にはまったく理解ができませんでした。犯罪者なんて、私には一生、縁のない存在だと思っていましたから。
ところがいざ自分が逮捕され、犯罪者になった瞬間、私は孤独から解放され、人間性を取り戻したように感じたのです。誰とも話をしない日が続いていたので、取り調べさえ楽しい時間でした。
恥ずべきことをしたのは百も承知ですが、私にとって万引きはSOSでした。孤独で、出口が見えない苦しさを、誰に何と伝えればいいのか、わからなかったのです……。治療で自助グループに参加するようになり、仲間や頼れる専門家と知り合うようになって生き方が楽になりました。
最近は、研究の悩みについて、相談できる人が身近にいなくても、SNSの仲間で共有できるようになりました。私たち高学歴難民はマイノリティですから、仲間や共感してくれる人とどうつながっていくかが、生き残るための課題でしょうね。