植物の前では何時間でも“弁が開く”(若葉)

父親に心を開けなかった佐藤浩市が“息子たち”に語る家族のありがたみ。「そこにいるのが当たり前だと思って生きていられるのは、とても幸せなこと。その幸せに気づかないことも含めてね」〈池松壮亮、若葉竜也と共演〉_6

──劇中では家族に対して驚くほど口が悪くなってしまう花子のことを「弁が開いちゃってる」と表現するシーンがあります。みなさんは、つい理性を失ってしまうような、弁が開いてしまう相手やシチュエーションはありますか?

佐藤 僕は若いときに弁が開きすぎていたので、いまは開かないように気をつけています(笑)。昔は思ったことをすぐに口に出していましたから。僕の親父(俳優の三國連太郎)がそういう人だったので、いいことだと思っていたんです。
それは違うということに気づくのにだいぶ時間を要しました。ただ、若いころならば“弁が開く”のも悪くないんじゃないかと思います。

逆に僕は自分の家族の前では開けなかったんですよ。たまに父親が帰ってきて食卓にいると、違和感、異物感がありましたから。「なんでこの人がいるんだろう」と思っていたので。家族の前で弁は閉じていましたね。

若葉 僕の場合、“弁が開く”相手は植物ですね。植物が好きなので、植物園に行くと2〜3時間でも眺めていられるんです。そのとき静かに弁が開いていると思います。植物は見たこともない瞬間を見せてくれるので。

特に惹かれているのは塊根植物。あと盆栽も家にあるので、「自分が小さくなってこの木を見上げたらどういう気持ちになるだろう……」とか、その時空へ行く感じです。なんか恥ずかしいですね(笑)。

池松 僕は恐らくないですね。平成に生まれ「弁は閉じなさい、人前で開くものではない」と育てられてきたので(笑)。

しいてあげれば、映画と向き合っているときのみ弁が開いているのかもしれません。

ハグしておけばよかったと思うかもしれない(池松)

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──家族が“存在確認”をするためにハグをするシーンがありますが、みなさんは家族とした経験はありますか?

佐藤 うちで飼っているトイプードルにヤキモチを妬かせるために、カミさんとハグします(笑)。

池松 やめてください。浩市さんのそんな話聞きたくないです(笑)。

──若葉さんと池松さんは?

若葉 僕は絶対にないですね。親父の本音とかあまり聞きたくないくらいだったので。「一人で生きていけ!」と言われて育ってきたので、ハグはありえないです。

池松 物心つく前はたくさんあったと思いますが、物心ついてからは世代的にもそういうことはなかったですね。同級生でも家族や友達とハグするというのは聞いたことないです。

佐藤 若い人のほうがあるんじゃないか? 僕の若いころなんて全然考えられないけど。

池松 今の若い子たちは案外、日常的にしているような気もしますね。この映画にあるように、親に限らず「生きているうちにきつくハグしておけばよかった」と思うことは今後もあると思います。心のハグはわりとしていますけど。でも今さらなかなか言えないですよ、母親に「ハグしよう」とか。「は?」と言われて終わると思います(笑)。

佐藤 親はいつまでもいないんだからな(笑)。


取材・文/斎藤香 撮影/石田壮一 
池松壮亮 Hair & Makeup FUJIU JIMI
若葉竜也 Hair & Makeup FUJIU JIMI/Stylist Toshio Takeda (MILD)
佐藤浩市 Hair & Makeup Kumi Oikawa/Stylist Yoshiyuki Kitao

佐藤浩市
1960年生まれ。東京都出身。80年に俳優デビュー。多くの映画、ドラマで活躍。『忠臣蔵外伝 四谷怪談』(1994)『64-ロクヨン-前編』(2016)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞。近作は『Fukushima50』(2020)『20歳のソウル』(2022)『ファミリア』『仕掛人・藤枝梅安 第二作』『せかいのおきく』『キングダム 運命の炎』『春に散る』(いずれも2023)などがある。最新作は、ドラマ『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』(2023/フジテレビ)。

池松壮亮
1990年生まれ。福岡県出身。2003年『ラスト サムライ』で映画デビュー。映画を中心に活動しており2021年に『アジアの天使』で第20回ニューヨーク・アジアン映画祭ライジングスター・アジア賞を受賞。主な出演作は『夜空はいつでも最高密度の青空だ』(2017)『斬、』(2018)『宮本から君へ』(2019)、『ちょっと思い出しただけ』(2022)『シン・仮面ライダー』、『白鍵と黒鍵の間に』(いずれも2023)。ほかDisney +「スター」配信ドラマ『季節のない街』が配信中。

若葉竜也
1989年生まれ、東京都出身。2016年『葛城事件』でTAMA映画賞最優秀新進俳優賞を受賞。NHK連続テレビ小説『おちょやん』(2020)で注目を集める。主な出演作は『生きちゃった』『AWAKE』(いずれも2020)『街の上で』『あの頃。』『くれなずめ』(いずれも2021)『前科者』『神は見返りを求める』『窓辺にて』(いずれも2022)『ちひろさん』(2023)。最新作は『市子』(2023年12月8日公開)『ペナルティループ』(2024年3月公開予定)

『愛にイナズマ』(2023)上映時間:2時間20分/日本

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映画監督デビューを目前に控える折村花子(松岡茉優)は、業界の常識を押しつけてくるプロデューサーから若い感性をバカにされ、助監督からは露骨なセクハラを受けていた。最悪な気持ちで入ったバーで、空気は読めないもののやたら魅力的な青年・舘正夫(窪田正孝)と運命的な出会いを果たす。そんな矢先、プロデューサーに騙され映画の企画を奪われた彼女は、失意のどん底に突き落とされる。反撃を決意した花子が頼ったのは、10年以上音信不通の家族だった。妻に愛想をつかされた父・治(佐藤浩市)、口だけがうまい長男・誠一(池松壮亮)、真面目すぎる次男・雄二(若葉竜也)。花子は、そんな家族の“ある秘密”を暴く家族映画を撮ろうとするのだが……。

10月27日(金)より全国ロードショー
配給:東京テアトル
©2023「愛にイナズマ」製作委員会

公式サイト:https://ainiinazuma.jp