アメリカ版「論破王・ひろゆき」

また、この日の討論では言及がなかったが、ラマスワミ氏は東アジアに関しても「アメリカは孤立主義で臨むべき」との主張を展開する。たとえば、中台への対応については「私が大統領になれば、任期中に国内の半導体産業を育成し、台湾への依存を切る。そうすれば、中台の軍事衝突に巻き込まれなくてすむ」と発言している。

とはいえ、わずか4年の大統領任期内にファンドリーシェア世界一の台湾TSMC並みの半導体企業を育成できる保証など、どこにもない。また、アメリカの主敵はロシアでなく、中国だという極右的な自身の主張とも真っ向から矛盾するわけで、その整合性のない発言ぶりを聞くと、この人物は本当に秀才ぞろいのハーバード大、イエール大学院の修了者なのだろうかと、思わず首を傾げてしまう。

国内政策も矛盾だらけだ。その目玉はFBI(連邦捜査局)、IRS(日本の国税庁にあたる)、教育省などを軒並み廃止し、警察も州警察のみとすることなどで連邦政府職員の75%にあたる約100万人の人員を削減するというものだ。

〈アメリカ版ひろゆき!?〉「気候変動はホラ話だ!」米大統領選の注目株・ラマスワミ氏の矛盾だらけでも爆進できる”論破”力_3

経済金融政策も怪しい。FRB(米国の中央銀行)についてもその政策目標から「雇用の安定」を削除して縮小し、金本位制に戻すべきというのがラマスワミ氏の持論だ。全体のイメージとしては19世紀の牧歌的なアメリカに戻すような政策で、これはもう時代錯誤的と言ってもよい。

もっとも多くの人々から反発を受けているのが、投票年齢を25歳に引き上げるという投票権剥奪政策だ。これまでのように18歳から投票したければ、6か月の兵役に従事するか、(帰化移民が受ける)米国市民権テストで合格するか、救急隊員などの奉仕をするかなどの条件と課すというものだ。

若者に市民的価値観を身につけさせるためだというが、投票年齢の引き上げという歴史逆行的な主張への反発に加え、投票年齢の変更には憲法改正も必要とあって、その政策実現のハードルは高い。

言行不一致も目立つ。その典型が移民政策だ。アメリカには大卒程度の特殊技能労働者などに対するH-1Bビザ(査証)があるが、ラマスワミ氏はこれを廃止し、本当に能力のある人だけを選別する制度に変えると主張する。

H-1ビザは米企業に大人気のビザで8万人余りの枠に78万人が申請し、くじ引きが採用されるほどのニーズがあるにもかかわらず、この制度運用はいい加減で、技能不足の移民に大量のビザを発給していると断罪するのだ。

だが、雇用の安全弁的機能を果たしてきたH-1Bビザの恩恵を受けてきたのが、じつはラマスワミ氏が経営する製薬会社である。これまでに29回も同制度を常習的に活用し、移民を雇用してきたことが指摘されている(政治サイト”ポリティコ”、2023/9/16)。

このように、ラマスワミ氏の主張は矛盾だらけなのだが、そこは立板に水の弁論能力で爆進してしまうのが彼の武器であり、持ち味だ。その無敵ぶりはさしずめ、アメリカの「論破王・ひろゆき」といえば、日本の読者はピンと来るかもしれない。そんな彼がまさかの大統領候補にまつりあげられる可能性については、#2でお届けする。

文/小西克哉 写真/shutterstock

#2「トランプ有罪」なら一躍、共和党の大統領候補に⁉ アメリカ版”ひろゆき”・ラマスワミ氏の華麗なる経歴