権力者とメディアが会食する唯一の晩餐会
その晩のバイデン大統領のスピーチはある有名な格言から始まった。
「新聞がない政府と、政府がない新聞。どちらかを選択しろと問われれば、わたしの選択は躊躇なしに後者だ」
言論の自由の重要性を強調するとき、アメリカ人なら一度は耳にしたことがあるトマス・ジェファーソンの名言だ。
場所は4月30日のワシントン・ヒルトンホテル。パプリカ仕上げのフィレ・ミニョンやアラスカ産高級ヒラメに舌鼓をうつ面々はホワイトハウス担当記者、メディア幹部、政治家、官僚、軍人など2600人を超える。
ホワイトハウス記者会が毎年主催するこの晩餐会には歴代の大統領が出席し、ジョークや毒舌を披露することが習わしとなっている。アメリカでは権力監視を担うメディアと政治家は緊張関係にあり、普段、両者がひとつのテーブルを囲んで酒食をともにすることはないため、この晩餐会は唯一例外的な行事なのだ。
その歴史は古く、最初の出席は1924年のカルビン・クーリッジ大統領に遡る。例外的に出席できなかったのは1981年、暗殺未遂事件で入院中のレーガン大統領だが、この時もわざわざベッドの上から電話でジョークを披露している。唯一、意図的に欠席したのはトランプ前大統領だけだ。