「エイリアンが来た」ぐらいの衝撃

――亡くなられる前、認知症と末期がんが発覚した実母に対して「変わり果てた姿を直視することができず、母の運命を受け入れることができなかった。」と述懐されています。認知症の義母と村井さんの良好な関係は、他人だからこそ成り立つものなのでしょうか。

そうですね。実の親だと、感情の動きが違うのかも。夫も、認知症の症状が出ている義母に対して「なんでこれがわからへんのや!」って怒ったりしますからね。はたから見てると「そりゃわからへんやろ」と思うんですけど、思い返せば私も母に対して同じように怒っていました。他人同士の距離感でこそ見えてくるものがあるのかもしれません。

母のときは、とにかく怖かったんです。彼女が死んでしまうことはもちろん、病気でやつれて、譫妄(せんもう)が始まっていくのが恐ろしかった。私が病室に会いに行くと、ぼーっとした顔をして、落ちくぼんだ目で見つめてくるんです。「こっちへ来て」と呼ばれるんだけど、怖くて近づけない。変わっていく母を見ていられなかった。病院から「早く来てください」ってガンガン電話がかかってくるんですけど、それでも行けなかったですね。

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写真はイメージです shutterstock

――華道など稽古事の師匠であり、義父の和食料理店を切り盛りする義母は、かつてはクラブを経営し大繁盛させるなど、かなりの“やり手”な女性。一方で形式を重んじ、息子の妻である村井さんに「様々なことを強い言葉で無理強いした」という、こだわりの強さも多々描かれています。

結婚当初、義母は私を本当の“娘”のように扱おうとしていましたね。義母も姑に、“娘”としての役割を求められてきて、私にも同じように接したのかもしれません。私の両親が、子供に対してあまり干渉しない家庭だったこともあり、結婚当初は大変戸惑いましたね。

今考えると、夫に女きょうだいはいませんから、結婚で「娘が来てくれた」と義父母が思うのもわからなくはないんですよ。義母は進学も諦め、仕事もやめなきゃいけなかったし、義父の両親の“娘”にならくてはいけなかった。だから私にも当初、同じことを求めたのだと思います。

しかし、残念ながら大外れでしたね。保守的な義父母からしてみると「うちにエイリアンが来た」って思ったんじゃないかな。つい先日も義父が私のことを「娘だ」って人に紹介したから、「いえ、違います。娘じゃないです」ってきっぱり否定したんですけど(笑)。

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――対称的な性格の実母と義母が、村井さんの予想を裏切り意気投合するシーンが印象的です。かつての村井さんが嫌悪感を隠さなかった実母の恋人に対して「あなたも大人なんやから、それを許せるような人になりなさい」と言う場面もありました。

義母は厳しいのに、恋愛に対しては柔軟ですよね。さすが、元クラブのママ! って思いました。