ボディイメージの認知のゆがみ
ここで、エネルギー摂取とボディイメージの関係について、少しお話しします。
やせているか太っているかを判断する基準として、ボディマスインデックス(BMI)というものがよく使われます(図4‐2)。
BMIは、体重(キログラム)を身長(メートル)で2回割って出す数値です。ただ、成人における指標であって、児童にはあてはまりません。
正常とされている数値は18.5〜25のあいだで22前後である体格が望ましいとされています。ためしに日本人女性の平均身長(158センチメートル)で、BMI22である体重を計算してみると、55キロなんですね。「意外と重いな」と思いませんか?
身長158センチの方の正常BMIの上限と下限を計算してみると、BMIが18.5である体重は47キロで、25である体重は62キロ。つまり、身長158センチの女性は、47キロから62キロぐらいのあいだであれば、肥満でもないしやせでもなく、もともと正常とされている範囲がかなり広いわけです。
BMI値が高すぎれば肥満ということになり、若いうちから生活習慣病を発症するリスクが高くなるなどの問題はあります。しかし日本の女性の場合、BMI値が低すぎる「やせ」のほうが広く社会的な問題になっているのです。
やせの女性がどれぐらいいるかというと、BMI18.5未満の人の割合は、男性が3.9%なのに対して、女性は11.5%。20代女性に限って言うと20.7%もいて、5人に一人は明らかなやせということになります。
そして、ここで大きな問題となるのは、本人としては「私はそんなにやせていない」という感覚でいる方が多いという点です。
つまり、客観的な基準でいえば「とってもやせている状態」を、自分にとっての「理想の体型」と認識しているということです。
こういった状態を「ボディイメージの認知のゆがみ」と言うことがありますが、この認知のゆがみがエネルギー摂取に影響して、極端に食べる量を減らしたり、食べ吐きを繰り返してしまったり、という行為につながっていくわけです。
認知のゆがみは何によって起こるのでしょうか。
その最大の原因は、街の中にあふれている、女性のからだの理想化されたイメージです。テレビや雑誌を見れば、細いモデルさんばかりですし、やせましょう、ダイエットをしましょうという誘い文句がいたるところで目に入ってきます。
アパレルショップにいけば、飾られているマネキンは細いマネキンばかりですし、売られている服もサイズのバリエーションは多くはなく、SサイズかMサイズが当たり前であるかのように大量に売られています。
こういった状況を毎日のように目にする若い女性たちが、「私も細い洋服を着られなきゃいけないんだ」という気持ちになったとしても、無理もないことだと思います。
今の日本に生きている女性のほとんどは、頭のどこかで「太りたくない」と思いながら食事をとっているようなものです。この状況こそ、変えていかなければいけないのではないかと思っています。
そして、社会が、「やせているほうがいい」と刷り込むのではなく、「望ましい体型とはこういったものだよ」「ふつうにもいろんなタイプがあるし、すごく幅があるものなんだよ」というメッセージを、具体的なイメージとして、伝えていく必要があるのだと思うんですね。
体重が減った増えたと、体重計の数字に一喜一憂するよりも、からだを動かしやすいかどうかとか、調子がいいかどうかといったことに目を向けるほうが、ずっと大事です。
もしも娘さんが、自分のボディイメージについて悩んでいる様子があれば、社会が押し付けてくるイメージにとらわれなくていい、と伝えていただければと思います。
文/高尾美穂 構成/長瀬千雅 図版/朝日新聞メディアプロダクション
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