子どもの思春期と母の更年期、重なる家庭が増えています
産婦人科には、さまざまな女性がいらっしゃいます。私はこれまで、10代から閉経後の方まで、もちろん妊婦さんも含め、女性のあらゆるライフステージに医療の側面からかかわってきました。
この数十年で、女性のライフコースは大きく変化しました。一番大きな変化は出産年齢です。
以前、小学校のPTAの講演中に気づいたことがありました。小学生のお母さんといえば、すごく若い方だというイメージを持っていたのですが、最近はアラフォーで出産する方もめずらしくありません。仮に35歳で産んだとすると、子どもが小学校高学年になるころ、お母さんは40代後半なんですよね。
小学校高学年といえば思春期を迎えるころです。一方、40代後半は更年期に差し掛かる年代であり、どちらも、女性としてのからだが変化して、こころも大きく揺さぶられる時期です。
つまり、「『小学生の子どものいる家庭』とは、『家庭の中に不安定なこころを抱えた人が少なくとも二人いる状態』かもしれない」と、いえるわけです。
しかも、お母さん世代が成長期、思春期だったころと今とでは、世の中は大きく様変わりしています。
女性のからだとこころの変化は意外なほどシンプル
女性の性や生殖に関する医療は格段に進化しました。出産年齢の高齢化も、進化した医療技術に支えられているといえます。
それと並行するように、女性だって家庭を「守る」役割に縛られることなく、自分のやりたいことを実現させたり、家庭の外で働き、社会とかかわりながら生きていく道を選んだりと、かつての社会が決めた「女性はこうあるべき」という枠組みにとらわれる必要はない、という考えが一般的になってきています。
とはいえ、社会にはいまだジェンダー格差が存在していて、平等や公平を目指していくべきだとか、セクシュアリティーは多様なもので、お互いに尊重し合うことが大切だという考え方が、日本でも広く知られるようになりました。
現在の思春期の子どもは、そうした最新の医療や、ジェンダーやセクシュアリティーにまつわるさまざまな価値観が当たり前にある時代を生きていくわけです。
女性たちは、母であり妻であり、働く人であり、自分の親との関係では娘であったりと、いくつもの立場をかけ持ちしながら、せわしなく日々を送っています。
思春期世代だって、家族との関係や学校での人間関係、部活動やそのほかのさまざまな活動を通して、十分に社会とかかわりながら生きています。その意味では、男性だから、女性だから、と違いを口にすることはナンセンスになるかもしれません。
一方で、一生を通して、女性のからだは男性よりも揺らぎが大きく、大きな波と小さな波が繰り返しやってきます。その大きな波の代表が、思春期と更年期なのです。女性のからだとこころの変化は複雑に見えるかもしれませんが、難しくはありません。意外なほどシンプルだったりします。
年代を問わず一番大事なのは、「自分の人生だから、自分で決める」こと。
ただ、これが簡単にはいかないのも、また真実なんですよね。
一つ確実にいえることは、いろんな悩みがあったとしても、「自分なりに幸せな人生を送れている」と感じられるかどうかには、家族やまわりの人たちとの関係性がとても重要だということです。
大きな波はときにからだとこころを揺さぶって、私たちをピンチに出合わせますが、うまく乗りこなすことはできるはず。そのためのヒントを一緒に考えていきましょう。