「なぜ殺したのか」「かわいそうだろ」町役場に殺到する苦情

こうして幕を閉じたおよそ24時間にもわたるツキノワグマの立てこもり劇。しかし、地元住人はホッと胸を撫でおろすなか、このニュースを受けて秋田県庁には動物愛護の観点から多くの苦情が寄せられたとの報道も。
そしてその矛先は、当然、直接駆除にあたった美郷町役場にも向けられた。

「殺到といっていいくらい苦情はきています。『なぜ殺したのか』『かわいそうだろ』という意見が大半です」

クマの駆除に対するクレーム殺到はもはや恒例だ。記憶に新しいところでは、今年7月、北海道釧路町の牧草地で “最凶のヒグマ”「OSO18」が駆除された際も、釧路町役場に多くの非難が寄せられた。

今年7月に駆除された“最凶”のヒグマ「OSO18」の死骸
今年7月に駆除された“最凶”のヒグマ「OSO18」の死骸

北海道のヒグマに比べ、本州を中心に生息するツキノワグマは一般的に危険性は低い。しかし、同じく秋田で2016年5月から6月にかけて起こった十和利山熊襲撃事件では死者4名を出すなど、ツキノワグマによる死傷者は定期的に報告されている。
さらに、今年はクマの目撃情報や駆除件数は飛躍的に上がっているという。

「近年、山から人里に熊が下りてくるケースがかなり増えており、美郷町も『足跡がある』『近所の栗の木に何度も来る』といった目撃情報が相当数、寄せられています。
駆除件数もこれまでは年間17頭が最多でしたが、今年は今回の3頭を含めてすでに39頭となっています」

ただ、いくら凶暴なクマとはいえ、職員も殺したくて殺しているわけではない。

「山中の餌も減り、縄張り争いもあるなかで、子育てをしながら生きていくのは困難……というクマなりの背景や事情があるのもわかります。ですが、一度人里に下りて作物を手に入れ、他のクマの脅威もないことを覚えたクマは、仮に捕まえて山に逃がしたところでほぼ確実に再び下りてきます。
私たちだって駆除現場を目にすると精神的にキツイものがありますし、命を奪うのはつらいです。
ですが、街の住人の安心安全を守るのが任務ですから、苦渋の決断であることは察していただきたいです」

美郷町に掲げられているクマ出没注意の看板(美郷町公式Faceboookより)
美郷町に掲げられているクマ出没注意の看板(美郷町公式Faceboookより)
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苦情の大半は県外の熊害の心配がない地域からだという。電話をかける前に、その土地の人の気持ちになって考えることも大切だ。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班