有線放送で「クマが出没しました」とアナウンス

“事件”があったのは石川県加賀市永井町の体験型テーマパーク「月うさぎの里」。19日午前8時35分ごろ、「施設の建物にクマが1頭侵入した」と石川県警大聖寺署に通報があった。幸い営業時間前で客はおらず、従業員は全員ただちに避難。同署員や猟友会員らが、クマが侵入したとみられる建物や施設内を捜索したが、見つからなかった。

現場はJR大聖寺駅の西約3キロの山間に面し、住宅街や工場なども近くにある地域。県警は近くを走る国道305号を通行止めにし、加賀市は住民に注意を呼びかける防災メールを発信するなど、周辺一帯は緊迫感に包まれた。

騒然となった月うさぎの里(写真/共同通信社)
騒然となった月うさぎの里(写真/共同通信社)
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事件発生当初、対応にあたった加賀市農林水産課の職員が振り返る。

「午前8時15分ごろに『月うさぎの里』の従業員から『店にクマが入ってきた』との通報を受けました。警察官約30人、猟友会の加賀支部のメンバー12人に市職員を合わせ、計50人近くで対応しました。住民の安全確保に万全を期すため、有線放送で『クマが出没しました』とアナウンスしたり、国道305号線を通行止めにするなど、物々しい雰囲気が漂っていました」

捜索にはドローンも使い、計9時間がかりで慎重に行った。

「同施設のメインの建物の1階には『正面口』と『裏口』の2つ出入り口があり、午後2時20分ごろにまず、ドローンを裏口から入れてクマの行方を探し、続いて警察官が建物内に入って捜索を進めました。猟友会員は建物近くで息を潜めて待機していました。1時間後の午後3時20分ごろ、正面口からも同様に捜索し、さらに午後4時から1時間ほどかけて2階を捜索しましたが、クマの姿は見つかりませんでした」

この捜索は安全確保に万全を期し、無意味な殺生を避けるために「確保」よりも「追い払い」を優先にしていたという。

「もしクマが施設の裏手の山側に逃げられる状況なら、そのまま追い払うというのが第一の方針。それが無理そうなら『麻酔銃』や『捕獲檻』での捕獲。最終手段として『発砲』という形で捜索は続けられ、午後5時45分に『捜索打ち切り』となりました」

ツキノワグマ(写真はイメージです)
ツキノワグマ(写真はイメージです)

現場の「雰囲気」を察知したのか、クマはひっそりと姿を消していた。自然豊かな土地柄の同市では以前からクマの目撃情報は多く、2020年10月にはショッピングモール「アビオシティ加賀」にクマが侵入、13時間後に駆除されるという“事件”があった。市職員はこう続けた。

「その年の同時期と比べると、今年はクマの目撃情報は20件も多くなっています。そこで農林水産課としても、『藪の中にクマが潜んでいるかもしれないので、山を歩くときは鈴を付けましょう』とか『生ゴミ・ペットフードは屋外に放置しないようにしましょう』、『クマは柿や栗の木に寄ってくるので、秋になったら収穫や薮の刈払いを早めに済ませましょう』といった呼びかけを徹底しているところです。
今回、姿を消したクマの対策として、すぐにでも捕獲用の檻を『月うさぎの里』の近くに設置するつもりです。正直なところ、私たちからしても『なぜこの時期にクマが人里にきたのか』はよく分かっていません。通常であれば、冬眠の前後の秋や春先にやって来ることはありますけど、今の時期は人里でもとくに食べるものがないのに、なぜ来たのか...。そのあたりも、猟友会の方と原因を探っていくつもりです」