日本とイタリア、それぞれのバリアフリー

一番慌てたのは、ミラノからフィレンツェの移動だった。大事なミラノコレクション出演は終わったあとだから、まあ、よかったんだけど。

チケットを買い、時間どおりにホームに行けば、駅員さんが対応してくれて、乗れるものだと思っていた。ところが発車時間になっても、それらしき人が来ない。ホームを間違えていたことがわかり、窓口で次の列車に変更してもらった。もちろんホームの番号も、しっかりと聞いておいた。

1時間後、今度は余裕をもってホームに行った。何号車の何列何番か座席番号も確かめ、そこの入口で待ち構えていたけど、なかなか列車は来ない。

「まさか、また間違えた?」

じりじり焦り、やっと電車が到着したのは25分遅れ。停車してすぐ女性の乗務員さんが降りてきた。

イタリアの電車は車高が高くて3段くらいステップがあるから、男性乗務員を呼んで、車椅子を持ち上げてくれるんだろう。そう思っていたら音がした。

「ピーッ!」

その女性乗務員が、勢いよく笛を吹いたのだ──出発の笛を。

彼女はさっさと乗り込み、私たちは取り残されてしまった! 再び窓口に行くと、「車椅子で乗車する場合は、対応のために2日前の予約が必要です」という冷たい答え。

今までチケットを買えたし、変更もできたのに、なんで突然? 車椅子なのは見ればわかるんだから、最初に教えてくれたらいいのに。

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『私はないものを数えない。』より ©︎ Sumiyo IDA

チケットを払い戻してもらい、「深夜バスで移動できるよ」と教わったけど、地下鉄で苦労して行った隣駅のバスターミナルは乗り場がめちゃくちゃ多くて、しかも行き先が書いていない。同行者も英語は得意じゃないし、これは無理だとミラノにもう1泊した。

またホテルをとって数時間の滞在──もう夜で、くたくただった。

日本の駅は基本的に、駅員さんに介助してもらう仕組みだ。降車スロープを出し、階段昇降機を操作してもらったりするので、待ち時間がたくさんある。

イタリアの駅はあらかじめ頼んでおかない限り、電車の3段のステップも自力で上がり、基本的に自分のことは自分でしなきゃいけない。

その代わりに車椅子マークがたくさんついた案内図があり、バリアフリーでどう移動するかがわかりやすくなっている。イタリア語も英語も読めない観光客にはかなり難しいけど、地元に住んでいて慣れていたら、待たずにさっさと動けるんだろう。

人の手を借りるのか、仕組みを整えるのか、バリアフリーにもいろいろある。これも旅をしなかったらわからなかったことだ。