ゴンドラも馬車も「いいよ、乗りなよ!」

イタリアは、どの都市も石畳の段差があまりにすごくて、「車椅子から落っこちないように、溝にハマったりしないように」と常に意識して踏ん張る感じでいたら、筋肉を使いすぎたのか、ときどきけいれんした。車椅子も負荷が多いから、朝たっぷり充電してもかなりバッテリーを消耗する。私も車椅子もおつかれさまだ。

ヴェネチアでは水上タクシー、水上バス、一通り乗ったけれど、ゴンドラも欠かせない。

「だけどさ、乗ってる間に車椅子を置いといたら、盗まれるんじゃないの」

「車椅子ユーザーでも乗せてくれるのかな?」

同行者とそんなやりとりをしながらゴンドラを呼んだら、お兄さんは「いいよ!」といきなり車椅子ごと私を持ち上げた。ぽんと小さな船に乗せられ、「揺れたら落ちちゃわない?大丈夫?」と不安だったけど、お兄さんは平気で鼻歌なんか歌っている。

私は自分でゴンドラの座席に乗り移ったけど、なんとも軽いノリだ。

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『私はないものを数えない。』より ©︎ Sumiyo IDA

日本なら「車椅子ですか」と言って慎重に対応するけど、イタリアは違う。「いいよ、乗りなよ!」みたいな感じは、ローマの観光馬車も同じだった。

私が無事乗り込むと、馬車のおじさんは畳んだ車椅子を前に置いてくれたけど、馬の動きと石畳のせいで、ものすごく揺れる。

「あっ、落ちちゃう」と心配しているのがわかったのか、おじさんは片手で車椅子を押さえながら片手で馬を歩かせ、すごく大らかだ。

お天気に恵まれ、ホテルのテラス席、ゴンドラ、馬車とすてきな写真や動画が撮れた。ヴェネチアの運河の水は、正直、臭かったけど最高だった!