YouTuberは主人が喜ぶ芸をするイヌ? SNS上で凶暴化する日本人を増やしている、「自己家畜化」という歪んだ進化
一部のオオカミが、進んで人間とともに暮らすことで食性や形質、性格を変化させ、温和で従順なイヌへと進化してきた過程を「自己家畜化」という。そして、この自己家畜化という進化の道を、現代日本が急速に歩んでいる。自己家畜化の弊害、その最たる例が、SNSで他人を誹謗中傷し、ストレスを解消することだという。「人の成功よりも人の失敗談が聞きたい」「公務員の給料は下げるべきだ」「性的少数者を特別扱いするな」こうしたSNS上で頻発する言説は歪んだ自己家畜化の一種である。なぜ現代の日本人がSNSにおいてはここまで凶暴化するのかを解説する。
自己家畜化する日本人 #1
国全体が低俗なバラエティ番組と化している
YouTuberに罪はないが、「一瞬の面白さに至上の価値を置く」という意味でもう少しだけ例を挙げたい。
面白さを追求する人生はもちろんあっていい。その動画に一瞬心を救われる人もいるだろう。だが、国民全員が面白さの方向しか見なくなったら、国の基盤は間違いなく脆くなる。
笑いを伴う「面白さ」というのは今、この時の一瞬の快楽に過ぎない。面白さだけを追求する価値観は、すべてをバラエティ番組化することにも似ている。そうなると、社会全体を少しでもよくしようとか、未来の世代のために自分はなにができるかといった公益や長期的な視点がどうしても欠如してしまう。
平時であれば、それでも社会は回るだろう。だが、ひとたび非常事態に陥ると、その社会はたちまち危機に瀕してしまう。コロナ禍の数年間を思い返すだけでも、すでにその事実は証明されている。社会の構成員全員がそのような使命感を持つ必要はないが、一定数はそうした人材がいなければ国も社会も成り立たない。
AI(人工知能)やロボットが人間の労働すべてを肩代わりしてくれる未来が到来しても、それは同じだ。AIが最も得意とするのは将棋やチェスのようにルールが明確で限定された場である。有限のルール内だからこそ、あらゆる可能性を洗い出せるのがAIの強みだ。
一方で、現実世界は常に予測不能なことが起きる。前代未聞の事態に対処するのは、大量の情報を分析できるAIではなく、やはり自立した頭で考えられる人間しかいないのだ。
モーレツな社畜たちの幸せな家畜人生
なぜアメリカを恨まない? 日本人の特殊な国民性
日本人の家畜化を後押しし続ける日本の公教育
文/池田清彦
写真/shutterstock
2023/10/2
¥1,012
208ページ
ISBN:978-4396116880
「ホンマでっか!?TV」出演の生物学者による痛快批評!!
家畜化の先に待つ阿鼻叫喚の未来
一部のオオカミが、進んで人間とともに暮らすことで食性や形質、性格を変化させ、温和で従順なイヌへと進化してきた過程を自己家畜化という。そして、この自己家畜化という進化の道を、動物だけでなく人間も歩んでいる。
本書は自己家畜化をキーワードに、現代日本で進む危機的な状況に警鐘を鳴らす。生物学や人類学、心理学の知見を駆使して社会を見ることで、世界でも例を見ない速度で凋落する日本人の精神状態が明らかになる。
南海トラフ大地震といった自然災害の脅威が迫り、生成AI、ゲノム編集技術といった新しいテクノロジーが急速に普及する今、日本人に待ち受ける未来とは――。
第1章 「自己家畜化」の進化史
「自己家畜化」とはなにか/ウシやブタは人間によって家畜化された/狩猟採集民が肉をあえて食べ残していた理由/人類のゴミに目をつけたオオカミ/イヌと人類のWin-Winな関係 ほか