「がん細胞だけを殺す治療法が開発されつつある」と大統領が漏らした!?

その後、小川美香子から助手を引き継いだ光永眞人が実験を重ね、光永を第一著者、浜松医大に戻った小川を第二著者、小林久隆を最終著者とした論文「特定の膜分子を標的とするがん細胞を選択的に近赤外線によって破壊する治療法(Cancer Cell -Selective In Vivo Near Infrared Photoimmunotherapy Targeting Specific Membrane Molecules)」(2011年11月、『ネイチャー・メディシン』)が発表された。後に「光免疫療法(PIT:Photoimmuno-therapy)」、あるいは「近赤外線光免疫療法(NIR-PIT:Near Infrared Photoimmunotherapy)」とも呼ばれることになる治療法の最初の論文だ。

当時のバラク・オバマ大統領が年頭の一般教書演説でこの治療法を「米国の研究成果」として取り上げたのは、論文発表からたった2ヶ月後のことだ。

がん細胞がぷちぷち壊れていく…人類の希望「光免疫療法」発見の瞬間「がんを光らせる実験のはずがまさかの結末に」_5

〈近赤外線でがん細胞を選択的に破壊する〉という前代未聞の治療法が、いかに医学界を超えたインパクトを与えたかがよくわかる。

オバマは「技術革新(イノベーション)を起こすには基礎研究が必要だ」と述べた後、こう言った。

「今日、連邦政府が支援する研究所や大学において、数々の発見がなされている。健康な細胞を傷つけることなく、がん細胞だけを殺す治療法が開発されつつあるのだ」

おそらくは「注目すべき研究がないか」と大統領府からNIHに問い合わせがあるなり、「注目すべき研究があります」とNIHから報告がなされるなりしたのだろう。

演説内で取り上げられることを事前に知らされていなかった小林は、その翌日、隣の研究室の同僚から知らされ、ホワイトハウスの公式サイトに行ってみると動画があった。

「ほんの一瞬だったので〝あ、言ったな〟という感想以上のものは抱きませんでしたが、あの演説がひとつの契機になったのは事実ですね」