シンプルゆえに難しい調理!
前出のインスパイア店の料理人に聞くと、「鉄板焼肉のキモである辛味噌をどんな味にするのか悩みました。試行錯誤をくり返し、結局、本場に寄せる方針を取りました。あと、ラードにも気を配りました。缶のラードはうまみが少ないので、背油からラードを取っています。この方法はコストを下げることにも役立っています」という。
この点を本家の的野さんに聞くと「ラードは市販のものに、秘密の油を混ぜることで、まろやかにしている」「辛味噌は、深みを出すためにかなりの手数を加えている」とヒントを教えてくれた。
「びっくり亭本家」の味は、昭和38年から60年間、福岡で他店舗に味をマネされ続けてきた。時には同じ看板を勝手に掲げる無法なお店もあったほどだ。しかしながら「なんとなくマネはできても、美味しくなければつぶれる店もある」とこの料理の難しさを的野さんは語る。
「この料理を作れても、うまさを出すのは別次元。簡単にできるものではないんです。キャベツや肉の状況で味が変わってもくる。それに対応するためには1年ぐらいでは無理。素材をどれだけ生かせるかが重要。私も20年間、試行錯誤を繰り返しています。
例えば、春キャベツは、甘みが強く、水分が多く、ベチャベチャになりやすい。ところが、冬キャベツは、芯が固く、苦みが強く、甘くない。だから、毎回試作をし、その日の調味料の配合を決める。セントラルキッチンではできない理由です」(前出の的野さん)
はんつ遠藤氏に東京での今後の広がりについて聞くと「『びっくり亭の焼肉』は、タピオカのような急増ではなく、地道に増えて定着していくのではないでしょうか。新鮮なキャベツに豚肉という軸は変えずに、辛味噌を工夫したり、トッピングをつけたりして……」と予測。
東京にある、博多のソウルフード「鉄板焼肉」は本家に比べ、まだまだ磨きがかかっていないかもしれないが、その発展の余地に期待し、近い将来、明太子、もつ鍋に続き、第3の博多グルメとして全国的な地位を築くのを、ぜひ見守りたい。
本場では、夕方仕事帰りに、鉄板焼肉を頼み、ビールやハイボール2杯をスカッと飲み切り、立ち去るお客さんが多いとか、そんな光景を東京でも目にする日はそう遠くないだろう。
取材・文/集英社オンライン