大切なのは人とのつながり

高梨さんは2年前にゲームセンターを辞めた。母親が病気になり、高梨さんは仕事をしながら母親の介護と家事をこなし、精神的に参ってしまったのだ。うつ状態になり、また家から出られなくなる――。

「うつになった原因は家族関係、とだけお伝えしておきます。家族にいろいろあって、まだ気持ちの整理がついていないので……」

昨年、体調が少しよくなった時、バイクで走っていて車にひかれてしまう。事故の後、うつが悪化して、ひどく落ち込んだ。

「あんまり大きな声じゃ言えないですけど、その時、ちょっと自殺も考えました。命の電話にも電話しましたからね。そんなレベルでした。何も考えられなくなったんです。ニヒリズムって言うんですか、将来のことを考えてもしょうがいないよねーみたいな感じで……。過去の事ばかり考えていたので、後ろを向きながら、前を見ないで歩いている感じですね」

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どうにか踏みとどまれたのは、ひきこもりの活動をしていたおかげだ。活動で知り合ったカウンセラー関係の仕事をしている人に1週間かけてじっくり話を聞いてもらい、落ち着いたのだという。精神科にも通って抗うつ剤を処方してもらった。

完治したわけではないが、「今は焦りや不安はあまりない」と言う。ひきこもりの活動で知り合った人たちとのつながりがあり、一緒に遊びに行ったりしていて、精神的に余裕があるのだろう。

とはいえ、高梨さんにとって、そうした新たなつながりを築くのは簡単なことではなかった。自己肯定感が低いせいで、誰かと知り合いになっても、「僕と友達なんて同列に扱っていいのか」と悩み、「友達」と呼べるまで5年かかった人もいるそうだ。

「ひきこもりが社会に出てくる時は大抵、もめます。コミュ力が乏しいので、デリカシーのないことを言っちゃったり、0か100かで、言いたいことをずっと我慢していて突然爆発しちゃう人もいて、どこかしらでぶつかります。

それでも、1、2年かけると普通に話せるようになるので、やっぱり人としゃべらないと。コミュニケーションを取っているうちに、学んでいく感じですよね。うちの親もそうですが、ひきこもりの親ごさんは、子どもに働けとかお金を稼げとか言うけど、最終的にものを言うのはお金ではなく、人の貯金というか、人とのつながりだと思います」