韓国国民の視線は変わってきている
情報のグローバル化で韓国人の認識が多様化してきた。日韓関係の行方も次代を担う若者がカギを握ると感じる。韓国の若者はリアリストであり、日本を眺める目も「複眼」が特徴だ。
「日本のアニメや漫画に親しむいまの若い世代が社会の中心になる頃には反日はなくなるのか?」。講演などでよく聞かれるとても難しい質問だ。「なくなることはありません。でも、今よりは薄まるでしょう」。このように答えるようにしている。
日韓関係はこのまま好転していくか。過去をことさら重んじてきた韓国にも近年になって「2つの変化」が生じている。
1つ目の変化は、国会議員で元慰安婦支援団体の前代表、尹美香(ユン・ミヒャン)が慰安婦問題の解決を目的とする財団への支援金を私的に流用したとして検察から在宅起訴された事件だ。
「尹美香事件が転機となって市民団体への国民の視線が変わった」(韓国ベテラン記者)という。反日団体は「聖域」であり、その主張は批判できないといった韓国での長年の不文律が破られたのだ。
日韓首脳会談がソウルで開かれた2023年5月7日、日本大使館前の慰安婦少女像は撤去されないように市民団体の手によって栅で覆われていた。毎週水曜日にこの場所で日本に謝罪と賠償を求める左派系市民団体と、これに反発する保守系団体が同時に集会を開き、にらみ合うようになってからだという。
韓国の若い人たちは、過去にとらわれていると疲れる
2つ目の変化は、韓国社会の対日観だ。韓国内で20代と30代を対象にした23年2月のアンケート結果では、日本への好感度が否定的な見解に比べて2.4倍も高かった。
新型コロナウイルス禍後に急速な回復をみせる韓国人の訪日客がどんどん増えていくことで、教科書には載っていない等身大の日本を肌で感じる人々が増えるのは日本や日本人の理解につながる。
韓国の若者はすでに同国が経済先進国入りした時代に生まれ育ったので、年配者が感じるような日本や中国への劣等感がない。学校で反日教育を受けつつ、市民団体や労働組合が主導するアジテーションなどの手法に古くさい、ダサいという認識をもつ若者も増えている。
韓国で現地の学生と交流する機会が多い日本人男性は次のように教えてくれた。
「韓国の若い人たちは過去のしがらみよりも自分の生活を充実させることに意識を向けている。日本がどうこうというよりも、楽しめるもの、消費できるもの、つまり生活を豊かにできるものの1つに日本が入っている。小中高生は日本のアニメを見て育っており、この子たちと交流しようと思えばアニメの話題は鉄板だ。『いい物はいい』という意識が強く、そこはドライだ。8月15日の西大門刑務所跡には家族連れがたくさん並んでいたが、ある女の子は『今はロシアの方が悪いんじゃないか』と話していた」。
私から将来の日韓関係はこれまでと変わっていくかどうかを聞いてみた。
すると「変わっていくし、変わらざるを得ない。韓国の若い人たちは、過去にとらわれていると疲れる、乗り越えないといけないと感じ取っており、私は日韓関係の将来を心配していない。むしろ邪魔をしているのは大人だ」とのことだった。
対日政策をめぐる尹大統領の様々な決断の背後で、韓国社会の静かなる地殻変動が進んでいる。
文/峯岸 博 写真/shutterstock
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