若者は歴史と文化消費を切り離す
韓国人は植民地時代に苦しめられた「日帝」への憎しみと、現代の日本人と日本文化に深い親しみを併せ持つ「ツートラック」(2路線)だ。若者にはその傾向が特に強い。
日本との協力を重視する尹錫悦が大統領選で当選し、日韓関係が改善に向かうと、22年から23年にかけて韓国人観光客がどっと日本に押し寄せるようになり、訪日客の国・地域別でトップを独走した。けん引役は若者たちだ。
23年2月の聯合ニュース(日本語版)は「不買運動の勢いどこへ? 訪日韓国人が急増=『政治と文化は別』との認識が定着」との見出しをつけた記事を配信した。
そのなかで大衆文化評論家は「上の世代になるほど歴史・政治問題をより敏感に受け止める傾向があるが、世代交代によってそのような面がかなり薄れた」とし「過去の歴史と文化の消費を切り離して考えることが一般化した」と分析した。
筆者がソウル出張でお世話になった政府傘下機関の30代女性は日本語をまったく話せないが、「『カベジン』(キャベジン)や『オータイサン』(太田胃散)は韓国でも人気があります」と日本の薬の名前を次々と挙げ、日本で訪れた観光地の写真も得意気に見せてくれた。
集団主義といわれてきた韓国で「個」を重んじる若者たちの存在は、上下関係が厳格な組織の秩序も揺さぶる。
文在寅政権時代にベストセラーになった『90年代生まれが来る』。本の帯には「文在寅大統領が青瓦台の全職員にプレゼントした本」と書かれている。若者の生態を分析した本で、企業の管理職らが競って買い求めた。
「鉄板」といわれた韓国の酒文化にも若者の波が押し寄せている。「MZ世代」の間では、自分に合う酒、楽しめる酒など自分の好みの酒を見つけて飲むのが当然との文化が定着した。酔うよりも吟味する時代になっている。隔世の感がある。
3時に解散の韓国の飲み会文化に変化が
近年、韓国で「119」という数字の並びを耳にするようになった。日本と同じく救急車を呼びだす番号だが、宴席では「1次会で終える。お酒は1種類にとどめる。午後9時前にはお開きにする」という戒めの言葉になる。
15年のことだ。8年ぶり2度目の駐在となった韓国でまず驚いたのが、酒文化の大きな変わりようだった。
2000年代だった前回駐在時の韓国スタイルは「333」(=3次会まで、3種類の酒、午前3時)が当たり前という風潮で、午前3時ごろのお開きの後に、サウナとわずかな仮眠だけで早朝から平然と働くのが「できる男」の証しだった。
当時30代で体力に自信があった筆者も韓国人と仲良くなるための通過儀礼として、「日韓戦」と称して明け方近くまでウイスキーをビールで割る韓国流カクテル「爆弾酒」の杯を重ねた。
その頃、韓国社会では「抑えた飲み方をするのはサムスンの社員ぐらい」といわれていた。
ところが2度目の赴任ではほとんどの会食は1次会だけで、2次会があっても近くのワインバーで軽く1、2杯程度。景気の悪化により、時々飲む爆弾酒もウイスキーから低価格の焼酎に主流が移っていた。韓国文化に親しむ日本人駐在員が一抹の寂しさを感じるほど韓国の酒文化は変容した。当然、酒席で上司が後輩に酒を無理強いするようなパワハラの光景もほとんどみなくなった。