フライデーで最初に取材するときは乗り気ではなかった

「東京・渋谷区の一等地にとんでもないマンションがある」

全ては栗田さんが受けた一本の電話から始まった。

“ネタ元”でもある業界の裏事情に詳しい不動産会社の高田(仮名)は「独裁的な管理組合の謎ルールの数々に、住民が困り果てている」「不動産業に関わる者として、この手の話は許せない」と言ってきた。

警察や消防署、都議会議員や弁護士、行政などあらゆる機関に相談してもまともに取り合ってくれない。その状況を打破するために高田はマンションの住人や管理組合に取材した記事を書いてほしいと栗田さんに依頼してきたのだった。

住人から話を聞くと、マンション敷地内には54台の防犯カメラが設置されており、「24時間行動を監視されているようなもの」と語る者もいた。

マンション内に設置された監視カメラ
マンション内に設置された監視カメラ
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また「理事長を筆頭とした特定の理事たちが、過半数の委任状を盾に総会での議決を独占してやりたい放題している」とも言われ、実際に管理規約にはない彼らが定めた、以下のような謎ルールがどんどん追加されていた。

・身内や知人を宿泊させると転入出費用として、10,000円を支払わなければならない
・平日17時以降、土日は介護事業者やベビーシッターの出入りを禁じる
・給湯器はバランス釜のみで、浴室工事は所有者でもさせてもらえない
・引越しの際に荷物をチェックされる

これらは謎ルールの一部にすぎないが、他の同ブランドマンションと比べると、その相場は格段に安価だった。これは“何か”あると思い、栗田さんは取材を進めることになる。

そして2020年8月14日発売号の写真週刊誌「FRIDAY(フライデー)」に「渋谷区の一等地マンションで、住民vs.管理組合の信じられないトラブル勃発中」というタイトルがついた記事が出た。

「フライデーで最初に取材したときは訴訟リスクもありましたし、住民と管理組合のどちらかに寄った記事になってしまう可能性が高い。くわえて労力もかなりかかるということもあって、はじめは前のめりではなかったです。

僕自身は極力書き手の色とか意思を消した方がいいと思っていて、取材して書くということは何かを断罪するとかではなくて、事実や起きていることを提示すべきという考え方です。

このレジデンスで起きていたことが常軌を逸していたので、できるだけ素材を活かしながら、会社や組織の中にいる人にも共感しやすいように、普遍性を持たせることを意識しました」(栗田シメイさん、以下同)