伊藤伶は真顔で言う。「リーグ優勝が目標です。口だけにならないよう、どうすれば勝てるかをチーム全員で考えている」。

実は昨年、忙しくてたまらなかった。「平日は昼の15時から19時までは練習で、朝夜を使って最低6時間勉強していました。しんどかった」。猛勉強と野球を両立させ、超難関の公認会計士試験の合格を勝ち取った。

そんな京大生ならではの「のめりこみ体質」に気づき、野球に生かそうとしたのが、昨年11月に就任した近田怜王監督だった。

若き指揮官は問うた。「勝つために、何をやっているのか?」

「勉強の仕方を聞くと、結構『徹夜でやってます』って言う。集中する能力が高いんです。だから、1つ方針を与えれば、そこに向かってガッとやれる。『守れたら使う』と言えば、打撃ばかりしていた子が、守備をめっちゃ頑張り出す。『これだよ』と方針を出してあげると、一気に入り込めるのが京大生なんです」

侍ジャパン監督も驚愕! 京大野球部が実践する「圧倒的強者の倒し方」_b
京大で指揮を執る近田怜王監督(写真中央でジャンパーを着用)

チーム作りを畑に例えよう。京大生が「種」で、彼らの体質が「土壌」なら、32歳の若い新監督が「水」を与える。近田監督はいろいろな野球を経験してきた。強豪の兵庫・報徳学園で左腕エースとして08年夏に甲子園8強。プロ入り後、ソフトバンクでは1軍登板できなかったが、常勝の空気を吸った。JR西日本を経て、17年に京大でコーチとして指導を始め、20年から助監督としてチームを支えてきた。

選手と接し始めたころ、選手に聞いた。

「勝つための練習って、どんなことをやってるの?」

野球が好きで、チームは楽しんでいる雰囲気に溢れていた。その選手は自信たっぷりに答えた。

「自分が打てるようになったら勝ちに近づきます!」

とにかく個々が技量を上げようとしていた。しかし、違和感があった。これでは勝負にならない。近田監督は当時を振り返った。

「考え方が自分中心だったんです。僕は個々より、チームとして機能している選手を重視します」

そこで勝つための方向性を指し示した。チームプレーをなによりも大切にする。
監督に就くと選手にまず伝えた。

「守れないヤツは使わない」

打ち勝てるチームではない。束になって戦う必要がある。冷静に自分たちの力を見極め、戦略を立てた。全体練習の守備練習でも気を抜いたミスをすれば出番は遠のく。ナインに緊張感を植えつけた。