物質依存の温床になる危険
これは小さいお子さんにはまだ縁遠い話かもしれませんが、中学生や高校生、場合によっては小学校高学年のような思春期に入るころから、注意が必要になるかもしれませんので、最後に取り上げておきましょう。
[図3−5]はたばこ、アルコール、麻薬などへの物質依存や非行や犯罪といった社会的に望ましくない行動に関する遺伝と環境の影響の割合を示したものです(なお、「コーヒー」は物質依存の一つとして、「転職」は社会的不適応行動のひとつとして、ここでは挙げられています)。
ご覧のように共有環境の影響があるものが少なくありません。これらも家庭環境が重要であるものです。
物質依存はわかりやすいですね。そもそもたばこやお酒が家のすぐ手に届くところにあって、親もそれらをよく口にするのを日ごろから見ていれば、そうでない家庭と比べて、ニコチン中毒やアルコール中毒になりやすいであろうことは容易に想像がつきます。
いや親はたしなむ程度にしか飲んでいないから大丈夫と思うかもしれませんが、物質依存になりやすい体質には遺伝的な要因もあり、第1章で説明したようなポリジーンの遺伝子伝達の仕組みによって、子どもがたまたまその依存体質になりやすい遺伝的傾向を親より強くもっていたとしたら、依存症に導かれるリスクは高くなるといえるでしょう。
ということはその逆もありえます。
これは正に私の場合がそうなのですが、父親はお酒とたばこでほとんど依存症といっていいほど、その量の多さで親族の間でも有名でした。
しかし私はお酒を全く飲めないわけではありませんが、飲むとすぐに赤くなって酔っ払い、すぐ眠くなる体質で、そのうえ、その酔っ払って周りに議論を吹っかけたがる父親を好ましく思っておらず、あんなふうになりたくないという気持ちも働いて、お酒はほとんど飲みません。
アルコール依存になるかならないかはALDHとADHというアルコール分解酵素の遺伝子の型がかかわっています。父はどちらも優性のホモだったのでしょう。一方、母がお酒飲みであったところを見たことはないので劣性のホモ、そしてそれを受け継いでいた私の遺伝子型がヘテロだったから、このようなことになったのだと思われます。
ちなみに物質依存にみられる共有環境の影響は、必ずしも親や家にあるとは限りません。きょうだいのどちらかが友達から教わってきたら、親に隠れてそういうものに手を出してしまう可能性は高くなるでしょう。これも共有環境の要因になる可能性があります。