収入や社会階層の影響への誤解
親の収入や学歴が子どもの学力や進学に与える影響は、研究によって3%程度から30%ほどとばらつきこそあれ、残念ながら確実にあります。やはり収入がよい家庭ほど、子どもの学力や大学進学率は高くなる傾向があることは否定できません。
金銭的に豊かであれば、本や参考書を買ってもらえたり、あちこちに旅行に連れて行ってもらって見聞を広げる機会にも恵まれますし、塾や予備校やおけいこごとなどにも通わせてもらえます。だからこそ前節で紹介した研究では、その影響を統計的に除去して残る部分に効く親の子育ての効果として、読み聞かせやしつけのあり方などを検討したのでした。
しかしそれとは別の視点から、家庭の収入や社会階層が子どもの学力や知能に及ぼす影響について、行動遺伝学は明らかにしています。それが家庭の社会階層と遺伝との交互作用という現象です。
アメリカで行われた研究では社会階層が上位のクラスでは、学力や知能に及ぼす遺伝の影響がより大きいのに対して、社会階層が下位のクラスでは逆に共有環境の影響が大きく出るのです。
社会階層が上位であれば教育にも恵まれて、成績が下位の階層の子どもたちよりも良くなると思われるかもしれませんが、話はちょっと違うのです。確かに集団全体の平均値を見れば収入の恵まれている層の方が成績は良い傾向にあります。
しかし社会階層が高いとは、そのお金を使う自由もあることになります。勉強好きな人はそれを自分の知的活動に費やすでしょうが、そうでない人はそれ以外のところに費やす。その結果、人々の遺伝的なばらつきがより顕著にあらわれて、相対的に遺伝率が高くなるようです。