本州全域で増加をたどるツキノワグマの出没件数

関東最後の秘境といわれる群馬県みなかみ町の奥利根。ここで25年以上、クマ撃ち猟師を続け、若い世代にその技術を伝えている高柳盛芳さんに、クマを追う立場から見るツキノワグマについて聞いてみた。

高柳さんは山に入ると、その年の木の実などの成り具合をチェックしながら、ツキノワグマの生活痕を見つけて追跡。鉄砲で頭や首を狙い一発で仕留める。

「心臓を撃ったって、100mは追いかけてくるんだから。神経を狙って一発で仕留めないと、こっちがやられるからね。彼らは耳と鼻がきく。だから近づくときは地形と風向きを読み、足音を立てないように、クマと同じ歩き方〝忍び足〟で近づく。あんなに大きくて強いのにいつも警戒しているね。ちょっとしたことですぐに人に気づいて逃げていくよ。とにかく頭のいい動物だよ」

クマ撃ち猟師・高柳盛芳さん。写真提供:風来堂
クマ撃ち猟師・高柳盛芳さん。写真提供:風来堂

高柳さんは続ける。

「最近は、みなかみ町周辺の夜の温泉街にもクマが出没するようになったしね。町にクマが出てくるなんておかしいでしょう。クマを撃たなくなったからだよ。もっと猟師がクマを獲れば人里になんか出てこないよ」

仲間と巻き狩で4頭を仕留めた高柳盛芳さん(前列左端)。写真提供:高柳盛芳
仲間と巻き狩で4頭を仕留めた高柳盛芳さん(前列左端)。写真提供:高柳盛芳

この6月には、岩手県盛岡市の動物園の園内にツキノワグマがたびたび侵入。臨時休園をよぎなくされた(現在は開園)。この動物園は4月に開放的なデザインに一新。リニューアルオープンしたばかりで、皮肉なことに、大きな窓からツキノワグマを真近で見ることができる「ツキノワグマテラス」が展示の目玉のひとつだった。

山形県でもこの6月、市街地などでのクマの出没が相次ぎ、前年の同時期に比べて130件以上も増加。ほかに新潟県、長野県、京都府など本州全域で出没数は増えている。

「本州のツキノワグマの出没報告件数は、確かに多い印象があります。ただし、例えば福島県のように、出没グマが体長50~80cmといった小さな例が多い県もあります。出没個体の属性に関する情報の分析や精査がなされていないため、具体的な状況は私も把握できていません。いずれにせよ,人身事故事例が増えてくるのはこれからと思います」(山﨑教授)