〈ツキノワグマ編〉

新たな衝撃を与えた朱鞠内湖の死亡事故

2023年5月14日、幌加内町の朱鞠内湖で、釣人(男性)が襲われ死亡する熊害事故が発生した。翌日、地元猟友会によって加害グマは駆除されたが、胃の中からは被害者男性と思われる肉片と骨片が見つかっている。

死亡例としては今年で2例目、被害事例は3例目だ。朱鞠内湖は奥深い森の中に位置し、無数のフィッシングポイントがあることで知られ、釣人憧れの地でもある。そこで起きた凄惨なこの事故は、道民を震撼させた。

クマは4~5カ月の冬眠期間中、飲食や排泄・排尿を一切せずに生き続ける。写真提供:坪田敏男
クマは4~5カ月の冬眠期間中、飲食や排泄・排尿を一切せずに生き続ける。写真提供:坪田敏男
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一方、北海道一の大都市・札幌でも連日のように市街地周辺にヒグマが出没し、その数は過去最多ペースで増加中だという。

札幌市でヒグマ対策にあたる環境共生課熊対策調整担当係長の清尾さんに伺うと、「住宅街の拡大や、農家の廃業などで緩衝地帯が機能しなくなり、山からいきなり市街地へと、ヒグマがぽっと入ってきてしまう状況があちらこちらで起きています。出没対応は委託する外部の環境保全団体とともに行っており、市民の方々にはまず雑草や放棄果樹の伐採、電気柵の設置などを呼びかけ、お願いしているところです」

北海道では「北海道ヒグマ管理計画(2022(令和4)年~2027(令和9)年」を策定。自然環境局野生動物対策課ヒグマ対策室では、昨年度「ヒグマ緊急時専門人材派遣事業」を立ち上げ、ヒグマの専門人材の登録と派遣という新たな取り組みをスタートさせている。朱鞠内湖の事故も、この仕組みを使って専門家が速やかに現地に派遣された。

「かつて専門家の間では、ヒグマは全道に3000頭いると言われて久しかったのですが、現在はもっといると思われます。道が発表している1万1700頭(2020年度)という数は、個体数算出の精度があまりよくないのです。全道にどれくらいのヒグマがいるのかは、正確にはわかっていません」と語るのは、40年以上クマの研究を行ってきた北海道大学の坪田敏男教授だ。

1990(平成2)年、動物愛護の観点からハンターによる春熊駆除(穴の中で冬眠中の個体や親子グマを狙う)が禁止になって以来、33年。その数が増えてきたことは事実で、しかも猟で追われなくなったヒグマは人を怖がらなくなっているともいわれている。

一度禁止にした春熊駆除だが、個体数増加により、道は「人里出没抑制等のための春期管理捕獲」という呼び名のもと、ヒグマ管理計画の対象地域で春熊駆除を条件つきで再開。自治体によっては実施している。

生態調査の様子。捕獲ワナにかかったヒグマに、吹き矢で麻酔薬を投与する。写真提供:坪田敏男
生態調査の様子。捕獲ワナにかかったヒグマに、吹き矢で麻酔薬を投与する。写真提供:坪田敏男