「嘘を書くことしか許されないので、忖度ですよ」

久保学校長は、等松教授の論考を本当に精読したのだろうか。その最初のページには、防大の問題として〈検閲〉が指摘されている。コロナ禍中での学生舎の状況を心配する家族に宛てた学生たちの手紙を、國分体制下の大学校が検閲したというものだ(久保学校長の所感がこの事実関係に触れていないのはなぜであろうか)。

学生が家族に宛てた手紙は封をすることが許されていない ※写真はイメージです
学生が家族に宛てた手紙は封をすることが許されていない ※写真はイメージです
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防大において「学生が公表する文章」がどのような性質のものであるかを教えてくれたのは、久保体制下で退校した吉永さん(仮名)だ。

「まあ、反省文と同じですね。嘘を書くことしか許されないので、忖度ですよ」

学生間指導(上級生から下級生に対する指導)として、「反省文」は表向き禁じられている。上級生が下級生の「ミス」を糺すに際して、「その原因」と「同じミスを繰り返さないために、どのような対策を講ずるか」をノートに記して提出させるのだが、その主眼は、下級生の考えや解決策を検討することではないという。

「建前上、反省文は禁止されているので、『意見交換のための日記』とか『自発的な文書』ということで書かされます。ある時、部屋長から『フォロワーシップを涵養するリーダーシップとはどのようなものか。お前の考えを書け』と指導されました」(吉永さん)

そこで吉永さんは、自分の考えを書いた。

「リーダーシップとフォロワーシップの健全な関係は、抑圧ではなく、鍛錬と敬意の両輪によって支えられるのが理想ではないかという内容を書いたところ、『分量が少ないから再提出』と指導されました」

そこで、より詳細に自説を補強して提出したところ、今度は「理想を実現するための具体的な方法が書いていない」と言われ、また再提出。再提出すると「具体的な方法の種類が少ない」と再提出。1週間以上にわたって毎夜書き直しを求められ、「最終的には、『そんな気持ちでいるから、お前にはフォロワーシップが備わらないんだ』と、罰を受けました。『模倣実践と書けば、それで終わるんだから』と、同期は言っていましたが……」

ようするに、これが学生による作文の作成過程なのである。改革を進める久保学校長【6】には、忖度に忖度を重ねた「建前の言葉」に踊らされず、疑ってかかる姿勢も必要ではなかろうか。

前編はこちらから

【5】別の退校者は、3、4年生しか使ってはならないとされている乾燥機を(使ってはならないと知らずに)使ってしまい、「本来その時間に乾燥機を使えるはずだった上級生が使えなかった」という理由で、(小隊の)すべての居室を回って3、4年生に謝罪することを強要されたという。
なお、1年生が乾燥機を使ってはならないという規則は存在せず、この指導は「暗黙の了解」を破ったとしておこなわれた。


【6】学生間指導における「怒鳴る行為の禁止」や「夜間の清掃の禁止」については、在校生から好意的に捉えられている。

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