閉鎖病棟で3カ月間、自分と向き合い…

躁(そう)状態の時は、ストレス解消や現実逃避のため、デパートで好きな服を大量に買った。しかし、家に帰ると、いつのまにか買い物をした記憶がなくなっている。

一方、気持ちが沈んでいる時は、「死にたい。トラックが突っ込んできてほしい」と願う。
精神科に行った。「うつ病」「解離性遁走(とんそう)」と診断された。突然どこか遠くへ行ってしまい、気がつくと自分がなぜそこにいるのかわからないことが続いた。しまいには知らない場所で警察に保護されていた。

「このままではだめになる。徹底的に治さなければ」と、精神科病院の閉鎖病棟に自ら望んで入った。約3カ月間すごし、外で生きられない患者たちの姿を目の当たりにした。外部から遮断され、あらゆる自分の時間が、他人によって管理されている中には、これ以上いたくないと思った。

今変わらなければこのまま人生が終わると思った。この閉鎖病棟での3カ月間で、自分の気持ちに向き合おうと決めた。

自分が本当に好きなことは何か、自分にとって大事な人は誰か、本来の自分とは何者か。突き詰めて考えた。

哲学や宇宙など、自分が興味のある話を、とことん人と語り合える時間が最も楽しい。 そんな気の合う人たちとの時間を大切にしたい。自分の気持ちを抑えつけるのはやめようと決めた。

写真/AC
写真/AC

まず、区役所をやめた。自分を偽り、親が望む人間になろうという思いも捨て、退院後に身を寄せていた実家も出た。渋谷駅のハチ公前で、ストリートアートをしていた人たちに話しかけた。自分も一緒に描いたり、路上ミュージシャンと友達になったり。どんどん周りに自分の好きな人たちが増えていった。すると、ライターや撮影、ヘアメイクなどの仕事がフリーでできるようになっていった。

ある日、新宿ゴールデン街のバーでアルバイトしていた時のこと。ミニスカートに網タイツの女装をした男性客が入ってきた。

派手なだけではなく、自分らしさを表現していて、センスがいい。聞くと、IT関連の仕事をしながら、夜は自分の好きな格好で楽しんでいるという。「自分が好きなことをする人」の姿はやっぱり素敵だと感じた。これだと思った。

27歳で、女装専門の写真スタジオを立ち上げた。そのころはまだ、世の中に「女装=変態趣味」というイメージが強く、女装したい男性たちはこっそり、隠れながら、好きな格好をしているようだった。

そんな価値観をぶっ壊したい。立花さんは思った。女性の視点からきれいな女装のコーディネートを提案したり、女装タレントのプロデュースをしたり。ひげの濃い中年男性のかわいらしさを引き出すにはどうしたらいいかを追求したこともあった。

「自由で素敵な女装の人がたくさん街にいれば、女装が特別なことではなくなるはず。そんな世の中にしたいと思っていました」