「勉強ばかりではだめ」
東京都中野区の中野坂上駅周辺は、新宿駅まで約2キロの好立地で、昔ながらの住宅や店舗とオフィスビルが立ち並ぶ再開発エリアである。
その一角に、国内では珍しいギフテッド教育に取り組むNPO「翔和学園」があると聞き、2023年1月下旬に訪れた。「ギフテッド」がまだ浸透していない15年から「アカデミックギフテッドクラス」を開設し、18年からは「ギフテッド・2E対応クラス」に変更して実施している。
どんな子どもたちが、どんな教育や支援を受けているのかを知りたいと取材に行った。
グーグルマップで示された目的地は、中野坂上駅から徒歩1分の真新しい2階建てのテナントビル。1階は居酒屋や文房具店が入っており、2階がすべて学園のフロアとなっている。グラウンドや体育館はなく、学校というよりは学習塾のような雰囲気だ。
朝9時半。寒空の中、リュックを背負ったり、iPadを手にしたりした子どもたちが、ビルの脇にある階段をのぼって登園していた。東京や埼玉、千葉など関東近県から公共交通機関を使って通っている子がほとんどだという。
その約10分後、ジャンパーを脱いで薄着になった子どもたちが、外に駆けだしていった。
中学生ぐらいの少年が「早いよ!」「待って」と言葉を交わしながら、歩道を北へ向かって走っていく。高校生や20代前半の学生たちも、白い息を吐きながら走ったり歩いたり。約1キロ離れた東中野駅まで、ジョギングかウォーキングで往復するのが、この学園に通う子どもたちの一日の始まりだという。
生徒たちは教室に戻ると、今度はみんなで囲碁やラジオ体操、本の音読を始めた。一般の学校の教室の二つ分ほどの広さの大教室。個別化した指導をしていると思っていたため意外だった。
「集団行動もするんですね」。ジャージ姿の教職員、石川大貴さんに聞くと、こう説明してくれた。
「ギフテッド教育というと、エリート養成のイメージがあると思います。勉強ばかりしているような。でも勉強だけ教えても、社会で生きていく力は身につきません。ここでは学習だけでなく、運動や生活のスキル、コミュニケーション能力も身につけてもらおうと考えています」