通夜にはギャンブルがつきもの
自宅に戻ってきた叔父さんは、棺の中に入れられていた。バロンタガログという、フィリピンの伝統的な衣装を着せられていた。棺の周りには、花束が飾られ、蠟燭が灯されている。
フィリピンの通夜では、ギャンブルが行われる。遺族が葬儀代を稼ぐために賭場を開くのだ。亡くなった人の親戚や友人だけでなく、誰でも参加できる。
僕も学生時代、フィリピン人の友人を訪ねて行ったとき、見ず知らずの家庭の通夜に行ったことがある。礼儀として、棺の前でお祈りをし、遺族の方に挨拶をしたが、突然来た外国人にも丁寧に挨拶してくれた。
軒先に用意されたテーブルで、大人たちがトランプで賭ける。友人が賭けているのを見ていたら、コーヒーが出され、タバコも貰え、キャンディーなどもすべて無料で出てきた。見ず知らずの人が来ても、至れり尽くせりで驚いていると「これがフィリピンの文化さ」と友達は、出されたタバコを口に咥え、手札を確認した。
叔父さんの通夜でも、親戚や近所の人たちが夜通しトランプで賭け事をしていた。
葬儀の日。
葬式は教会で行われた。日本にいるミカは、ビデオ通話で参加した。参列している人たちは、日本のように喪服ではなく、白色のTシャツに短パン、サンダルといった格好だ。
教会から墓地まで、棺を乗せた車を先頭に、その後ろを行列を作ってゆっくりと歩いて行く。棺を乗せた車からは大音量で故人が好きだった曲が流れる。墓地に行き、コンクリートで作られた墓の中に棺を入れて埋葬される。
草が生い茂り、お菓子の袋やゴミがそこら中に落ちている墓
僕がミカと結婚してから、今までに4人、ミカのおじとおばが亡くなった。
大方は脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病が原因だ。脂っこい食べ物と甘い飲み物を毎日とるから、生活習慣病を抱えている人が驚くほど多い。体の調子が悪い人も珍しくなく、50代を超えた頃から亡くなる人も出てくる。
最近では、フィリピンに帰省する度に、会わない間に亡くなった親戚の墓参りに行く。乗り合いバスや、バイクタクシーで共同墓地まで行く。
共同墓地にはコンクリートで作られた、集合墓が並んでいる。カプセルホテルのように、3段、4段と重ねられた区画に棺が納められている。日本のように綺麗に整備されておらず、区画の大きさもバラバラだ。火葬はしない。
「この辺りだったな」と、案内してくれる親戚たちも、墓に刻まれた名前を確認しながら探す。草が生い茂り、お菓子の袋やゴミがそこら中に落ちている。一緒に来た子供たちは知らない人の墓の上をピョンピョンと飛び回る。
「こりゃ死んでも、知らない人たちに踏まれたり、ゴミを捨てられたりで、静かに寝れないな」と、ミカにいうと、
「そうだね。日本はお墓きれいだし静かだもんね。フィリピンは死んでもうるさいわ。私も、死んだら日本のお墓がいいわ」などと言う。
墓を見つけると、墓地の外で買ったキャンドルに火をともし、墓前に立てる。
「兄貴、ミカが来たぞ。天国から見てるか?」と、亡くなった叔父の弟が言う。