あのニヒルな笑顔が象徴するもの
風向きが変わったのは2000年代。作品のアニバーサリーに応じて製作された『スター・ウォーズ』や『ブレードランナー』などのメイキング・ドキュメンタリーへの出演だ。それらの作品の中で、過去のキャラクターへの言及が徐々に見られるようになったのだ。
さらにスーパーヒーロー映画を筆頭とするフランチャイズの活性化など、ハリウッドの潮目の変化が、再びハリソンを名物キャラクターに戻らせる機会を与えている。
2008年には『インディ・ジョーンズとクリスタル・スカルの王国』(2008)で19年ぶりにインディ・ジョーンズに扮し、そして2015年に『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)でハン・ソロを演じるなど、往年のファンを歓喜させた。さらに2年後の『ブレードランナー 2049』(2017)で再びデッカードを演じ、そのレジェンダリーな存在を若い世代にも知らしめることとなったのである。
そして2023年、ハリソンはインディ・ジョーンズを15年ぶりに演じる機会を得て、アクションの世界に戻ってきた。時間に干渉することのできるアルキメデスの秘宝「運命のダイアル」をめぐって、インディは再びナチスと死闘を繰り広げる。
知性を放棄したような騒々しいアクション映画が量産される今、本作は王道の冒険アドベンチャーの価値を高らかに主張している。また彼のようなヒーローを必要としなくなった時代に、インディ・ジョーンズというキャラクターを再考する深遠なテーマが込められている。
監督を担当したジェームズ・マンゴールドは、長年ビッグスクリーンの映画に適応してきたハリソン・フォードという役者の本質をこう語っている。
「撮影を終えてから6か月後の編集作業中、ハリソンのクローズアップを見てハッとさせられた。表情からインディが何を考えているのかが伝わるんだ。本当に優れた役者は目で感情を表現する。ハリソンはそれをやるうえに、横長のカメラフレームの中に自分がどう存在しているのかも理解している。アクションシーンもレンズに合わせて意識しながら演技をするんだ。それは本当にすごいと思ったね」
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から、すでに42年。長きシリーズの末尾を飾るとも噂される『運命のダイヤル』だが、同作は老境に達した役者のシニア・コンテンツではない。むしろ王者の風格と呼ぶにふさわしい、偉大な俳優ハリソン・フォードならではの“到達点”なのだ。
文/尾崎一男
ハリソン・フォード
1942年7月13日、アメリカ・イリノイ州シカゴ出身。1966年に『現金作戦』で映画デビュー。1977年に『スター・ウォーズ』にハン・ソロ役で出演し一躍人気スターに。『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)でインディ・ジョーンズを演じ、人気を不動のものにした。代表作は『ブレードランナー』(1982)『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985)『パトリオット・ゲーム』(1992)『逃亡者』(1993)『今そこにある危機』(1994)『サブリナ』(1995)『K-19』(2002)『ブレードランナー2049』(2017)など。『Captain America: Brave New World』(2024)『Thunderbolts』(2024)が待機中。
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)Indiana Jones and the Dial of Destiny 上映時間:2時間34分/アメリカ
“人類の歴史を変える力”を持つ究極の秘宝《運命のダイヤル》を巡り、考古学者にして冒険家のインディ(ハリソン・フォード)が、因縁の宿敵、元ナチスの科学者フォラー(マッツ・ミケルセン)と全世界を股にかけて陸・海・空と全方位で争奪戦を繰り広げる! 巨匠ジョン・ウィリアムズのおなじみのテーマ曲に乗せて、インディ・ジョーンズと共に映画館で壮大な冒険を体験する究極のアクション・アドベンチャーの幕が上がる―─。
監督 :ジェームズ・マンゴールド
製作総指揮 :スティーブン・スピルバーグ, ジョージ・ルーカス
音楽 :ジョン・ウィリアムズ
キャスト:ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、アントニオ・バンデラス、ジョン・リス=デイヴィス、マッツ・ミケルセン
2023年6月30日(金)より全国劇場にて公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/indianajones-dial
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