『aftersun/アフターサン』で見せた名演技

鍛え上げられた肉体美に宿る繊細な演技力。映画『aftersun/アフターサン』主演の27歳ポール・メスカルは、若手スター不在のハリウッドを救う救世主になれるのか_1
若い父親を演じた『aftersun/アフターサン』
Everett Collection/アフロ
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もう長いこと若手スター不在と言われるハリウッドで、静かに輝きを放っているのが、現在公開中の映画『aftersun/アフターサン』(2022)に出演する27歳のポール・メスカルです。3月に行われたアカデミー賞では、ブレンダン・フレイザーやコリン・ファレルらと共に主演男優賞にノミネートされ、世界中から注目されました。

演じたのは、別れた妻と暮らす11歳の娘ソフィと共に、トルコのリゾート地へバケーションにやってきた若い父親カラム。経済的に困窮する自分を人生の敗北者ように感じており、娘とのひとときをなんとか楽しみたいと願うカラムの優しさと繊細さが、バケーションをさらに悲しく切ないものにします。

バケーションの20年後、当時の父と同じ年齢になったソフィがビデオカメラで撮影した映像を見返すシーンが挿入されるのですが、恐らく、そのバケーションが父娘の最後の時間だったことが示唆されます。カラムの内面の崩壊を言葉少なく伝える、ポール・メスカルの名演技が光る作品でした。

彼が俳優として最初に注目されたのは、2020年のコロナ禍真っ只中のときに出演したテレビシリーズ『ふつうの人々』(2020)。複雑で繊細な感性を持つ青年を演じ、テレビ界のアカデミー賞と言われるエミー賞にノミネートされ、「あの人は誰?」と話題になりました。

生まれ故郷のアイルランド・ダブリンにある演劇学校を2017年に卒業し、2年間舞台で演技力を磨いた後、初めてドラマで主役を務めた『ふつうの人々』で、知名度がアイルランドから一気に世界へと広がったのです。