トー横界隈の問題の根深い点は…
――そこは変わらないと。
そうですね。でも、昔は体の関係云々なしに、本当に手を差し伸べる人もいたんです。例えば、ある作家の先生が14歳で家出してきた女の子を書生にして、助けたりしていました。そこにはほかに女の子が5人いて、ご飯を食べさせて、勉強させて、文字が読めるようになりましたと。そういう人間的なつながりがありました。
いまは、歌舞伎町近くの立派なマンションかホテルを借りて、そこで家出してきた女の子を3日間飲み食いさせて、4日目には客を取らせるそうです。それをやらせているのも、やっぱり家出して来た男。少し前に一斉(取り締まり)で幹部数名が逮捕されましたが、ちょっと世話になっただけで、疑似家族になっちゃってるんですよね。
だから男から「ちょっと、お金に困ってるんだよね」と仕事を紹介されると、「これだけお世話になってるから」って、簡単に売春に出てしまう。すごく早いんです。それを本職のヤクザではなく、素人がやっているんだから、時代がここまで来たかと思いました。
先に話した大学の件でも言えることですが、いまの社会はかつてないほど性暴力やハラスメントに厳しく、学校や職場でも再三、指導がありますよね。ところが実態はまったく違って、ヤクザ顔負けの出来事が進行している。その落差に、私は恐れを感じます。
――これだけ問題視されているのに、あまり対策が取られていないように思います。
私からみると、明らかに児童相談所がやらなきゃいけない案件なんですよね。どう見ても、14、5歳みたいな子がいますし、本来はすべて保護対象ですよ。だけど、結局、養育義務は家庭にあるというのが日本のルール。
仮に保護しても、児童養護施設ではなく家に戻さなきゃいけないんです。だけど、なんの繋がりもない歌舞伎町に家出してくるくらいの家庭環境なんだから、戻るわけがないですよね。そんな子供に対しても自己責任を突きつけるんだから、キツい社会だと思います。
結局、児童相談所が動かないので、事件を起こすことによって警察が身柄保護をするしかなくなる。これは精神疾患の患者さんが暴れていると、近隣住民が通報するのと同じ構図で、すべて司法に押し付けているんですね。未然に防ぐという部分に関しては、この国は完全に放棄しています。
――やはりトー横にいる少年少女は、家出をしてきている子が多いですか?
そうですね。でも家出という言葉ももはや死語かもしれない。だって、親も地域の人も関心がないじゃないですか。関係がもうすべて薄いので、彼らは人間への可能性をもう見出せないと思います。人間は協力して何かができるとか、なにかを作り出せるんだという考えは、彼らの中にはもうないような気がしますね。
3巻【ふつうの家庭に育つ闇】宝田由伸のケース
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取材・文/森野広明