読者が見たいものを描こう、と思えるようになった
——なぜ今はそれほど照れずにできるようになったのでしょう。
開き直りですかね(笑)。『氷の城壁』の後半から恋愛の甘い感じを描くようにしたら、喜んでもらえたので、読者の方が見たいものを描こう、と思えるようになって。
序盤は暗い話なんですが、自分が描きたかったのは、それが解消されるところまでだったんです。でも読んでくれている人は、キャラクターがくっついているところが見たいんですよね。
実際描いてみたら、私も楽しかったんですよ。前半で描きたいものを描くことができたので、「ここまでお付き合いくださってありがとうございます!」の気持ちもありました。
——以前のインタビューでも、「いちばん描きたかったのは、根本の部分に主人公たちがどうむきあうかでした」とおっしゃっていましたね。キャラクターたちが「根本の部分」や自分の感情に向き合うときの解像度がものすごく高いと感じます。たとえば、『氷の城壁』の主人公・小雪は、自分は湊のことを「傷付けた」のではなくて自ら「傷付けにいった」と、自分の感情をはっきりと言葉にして受け止めています。
だんだん、きれいな恋愛漫画が自分には刺さらなくなってきていて…その理由はなんなんだろうと考えたときに、すごく性格がいい女の子じゃなくて、ギリギリ「あるよね」と言えるくらいの汚さとか悪いところがある女の子を私は見たいんだな、と思ったんです。完璧な人にコンプレックスでもあるんですかね(笑)。
——『氷の城壁』の中盤で、小雪が「自分と違うタイプ」の人も「感情のある同じ人間なわけで…」と気づく場面があります。読んでいてハッとさせられたのですが、終盤で、今度はそのことを人に伝えるシーンがありました。二度出て来たので、誰もが「感情のある同じ人間」であるというこの考え方は、先生が描きたいことの1つなのかなと感じたのですが…。
うーん…言われてみれば、確かにそうかもしれませんね。今描いている『正反対な君と僕』も、結局そういう話ですし。平っていうちょっと暗い男の子が出てくるんですが、その子が東っていう派手な女の子に対して「思ってたより…『同級生』っぽいな…」って言うシーンを最近描いたんですよ。
暗い側が、派手な側に対して感じているコンプレックスみたいなものを、ちょっとほぐすシーンを描きたかったのだと思うんですが…それも「感情のある同じ人間なんだ」っていうのと、考え方のベースは一緒なんだと思います。今しゃべりながら「そうかもしれない」って思ったことなんですけど(笑)。