祭り帰りの団らんが一変…想像を絶する巨体が襲う

事件の発端は、夏も終わりに近い8月21日、深夜午後11時半過ぎの出来事だった。

この日、沼田市街地の恵比島(現・沼田町恵比島)で、年中行事の一つである太子祭が行われていた。祭見物を終えた一行が、村はずれの自宅へと向かって真っ暗な夜道を歩いていた。A(54歳)、その妻B(52歳)、長男C(17歳)、次男D(15歳)、近所の知人であるEの5人であった。

恵比島から4㎞ほどの地点にさしかかった時だった。

闇の中から真っ黒い大きな影が突然現れ、最後尾を歩いていたEを襲った。とたんにEの背中に鈍痛が走った。背中に受けた衝撃は、ヒグマの鋭いツメが着物の帯を強烈に引っかいたものだった。Eは驚きとともに大声を発する。前を歩いていた4人はその声を聞き、慌ててその場から走り出した。

その間、Eはヒグマの攻撃をかわすべく必死にもがいた。攻撃を受けながらも、なんとか帯と着物を自ら引き裂き、ヒグマから離れることに成功した。

〈クマ事件簿〉ヒグマの自分の獲物に対する執着心は恐ろしいほど強いという…巨大老ヒグマが祭り帰りの団らんを襲撃、4人死亡の恐怖の一夜_2
参考:『ヒグマ:北海道の自然』(犬飼哲夫、門崎允昭/1987[昭和62]年)。『日本クマ事件簿』より

腹部に一撃をくらい、さらにツメを突き刺され、
体ごと引きずり回された

ところが、今度は次男のDが襲われてしまう。腹部に一撃をくらい、さらにツメを突き刺され、体ごと引きずり回された。即死だった。これを見た母Bが驚愕し、足を止めてしまった。体が震え、動くことができなかった。するとヒグマがすかさずBに向かって突進してきた。この惨劇を間近で見ていたAと長男Cが、襲われている2人を救うべく無我夢中でヒグマに飛びかかった。

だが、ヒグマの力は彼らの想像を遥かに超えたものだった。

闇の中、狂ったようにヒグマが反撃に出た。Aが頭や背中を咬まれ、重症を負った。Cも地面にたたき伏せられた。重傷を負いながらも、AとBはEに助けられた。3人は無我夢中でヒグマから逃げた。ヒグマに追われながらも、現場近くに居を構える農家のF宅へなんとか飛び込むことができた。